LOVEのひろいばなし Vol.96「ベトナムいいヤツ数珠繋ぎ」

「このおかゆ、あなたが作ったの!?」

ぷりぷりのマッシュルームをナンプラーで煮込んだトロトロのソースでいただく胡椒たっぷりのおかゆが、極上においしい。旅の締めにと予約した、三時間のスパ・フルコースの締めに、ハーブとライムがたっぷり入ったフットバスに浸かりながら噛み締めるおかゆです。体に染み渡るお味。

「そんなにびっくりしながら美味しそうに食べる人初めて見た」

コロコロと笑う彼女は、ホイアンにある老舗シトラス・スパに入った時からとびきりの笑顔で友人のように対応してくれた人でした。性格もチャーミングなベトナムガール。

このあと私は直接ダナン空港に向かい、日本へと帰ります。このスパでタクシーを呼んでもらうことは可能か、と事前に確認したときも、フライト時間まで確認してくれてパーフェクトなタイミングでタクシーを呼んでおくわねと引き受けてくれたのが彼女でした。

タクシーに乗り込んだ時も、最後まで英語のわからないドライバーと私に同意が取れるよう、ベトナム語と英語両方で段取りをつけてくれました。

「三十万ドン、約束よ。降りる時にそれだけ払えばいいから。それ以上は必要ないからね」

千七百円ほどのまともなお値段です。ここまでしてくれるとは、本当にありがとう。小さくなっていく彼女を見ながら、私は心からくつろいで旅を終えることができそうだとじんわり感謝しました。彼女、ほんといいヤツだった。

さて、ホイアンからダナン空港までは四十分ほど。窓をあけっぱなしで走る若いタクシードライバー、信号待ちで隣に止まったバイク乗りが友達だったらしく、ひとしきり大声でニコニコと話してましたがそれも可愛かった。

その後、翻訳アプリで「国内線?国際線?」と私に聞いてターミナルを確認し、いざ空港へとギアが入ります。

これがすごかった。

ワイルドスピード、リアル版。ひたすら車線変更して車やバイクを避けてぶっ飛ばしていくスムーズさ、クラクションの慣らしっぷり、お見事です。

英語が苦手な彼は、空港に着く三分前にひとつだけ質問してきました。ハウ、オールド、アー、ユー。指を立てて「四十歳だよ」と伝えると、にこにこしながら「オー!シスター。アイアム、サーティー、スリー」と答えます。

そのあとはシスターシスターと私のことを呼んでくれ、到着後も荷物をカートに乗せるまで手伝ってくれました。もう必要のない細かいお金が残っていたので、三十万ドンに合わせて渡そうとしたら、「ノー、ノー」と断られました。いいからいいから、と握らせるとはにかみながらベトナム語でありがとう、そして何かを伝えてくれました。意味はわからなかったけど、私も「ブラザー、あなたもいい一日を」とハグしてお別れ。ああ、最後にまた、めっちゃいいヤツ。

さて、国内線でまずダナン空港からハノイに向かい、三時間半の乗り換え時間をもって、国際線への乗り換え。余裕のある行程です。ゲートまで進んでゆったり搭乗を待っていたら、ピコン、と表示が変わりました。

「Delay 30 min」

まあ、三十分くらいなら、と思ったのが甘かった。その後さらにハノイへのLCC国内線は合計で一時間半遅延。まずい、と気づいた時点で、時計の表示は「21:10」になっていました。

さて、私の日本への国際線出発時間は「00:30」。チェックインカウンターの締め切りは「23:40」です。今じりじりとゲートが開くのを待っているハノイ行き、このままいけば「23:10着」とな。まずい。三時間半の乗り換え時間が、一気に三十分になってしまった。

飛行機を降りたら、私は荷物をピックアップし、シャトルバスで国際線ターミナルへ移動し、チェックイン。これを三十分でどうしろと。

しかも、国内線と国際線、違う航空会社のフライトをとっておりました。つまり、次の便に連携がとれない。私としたことが。

あなたなら、できますか。見知らぬベトナムの空港で、大混雑の中、三十分の乗り換え。こいつはいよいよやばいということで、朝の便にフライトを変更しようかとも思ったものの、それ自体が出発の三時間前が期限だとか。ってあと二十分しかないじゃん。しかもネットじゃできないので、もう一度外に出てカウンターで手続きをしろって?そんなもんハノイ行きの国内線自体を逃すじゃないか。

目の前のゲートのグランドスタッフに相談してみることにしました。

「あのう…このあと乗り換えがありまして、今死ぬほど焦ってるんですけど」

忙しそうな他の化粧濃いめの女性スタッフにどつき回される感じで、にこりともしないメガネちゃんが対応に出てきてくれました。

「フライト全部見せてください」

私の行程を確認したメガネちゃん、何やらトランシーバーでやりとりを始めました。

「預けた荷物の柄は?色は?」

私が答えると、メガネちゃんはトランシーバーでめちゃくちゃ冷静で威圧的な声でカーゴチームに連絡を取り始めました。ベトナム語だったけど、意味がわかります、どうしたこうした、の隙間に何度も繰り返される単語「プライオリティ」。

メガネちゃん、積み込む直前の荷物の山から私の荷物を探し出し、一番最初に下ろせるようにカーゴさんに手筈をつけてくれたのです。私に向き直ると真剣な眼差しでこう言いました。

「ファースト。プライオリティ。ユア・バゲージ。ユー、ピックアップ。チェンジターミナル、ユー・ハブ・テンミニッツ。YOU CAN DO THIS!!!」

おおお、メガネちゃん!なんて心強いんだ!そしてカーゴさん、ありがとう、ありがとう、本当にありがとう!行ける気がしてきました。メガネちゃんもカーゴさんも、めっちゃいいヤツだった、ありがとう。

ダナンを飛び立つときに窓から見えた地上のカーゴさんたちがこんなにかっこよく見えたことはなかったです。記念に写真をとってしまったほど。

そして、私の帰国ルートはここから「ベトナム人いいヤツ連鎖」によって怒涛の展開を迎えていきます。

じりじりと過ごした約一時間の国内線フライト、やっとこさ雨のハノイに到着しました。パイロットのアナウンスです。

「皆様、遅延お詫び申し上げます。といいつつも、ぶっ飛ばしましたところ、予定より十五分ほど早く到着いたしました。ただいまのハノイ時刻は」

「22:54」!!!!

時計を見て私は大興奮しておりました。飛行機を「ぶっとばして早く着く」とか初めて聞きましたけども。これなら乗り換え行ける!と思いきや、キャプテンのアナウンスは続きます。

「しかしながら」

雨により、地上のゲートがまだ前の飛行機で埋まっているとかで、今から少なくとも十五分ほどはかかる見込みだとか。だああああ、ほんまか。

「地上スタッフの彼らもベストを尽くしています、信頼して彼らを待つことにします、ご理解ありがとうございます」

っていいこと言うやん。こりゃ間違いなくパイロットもいいヤツでしょう。ですが、こっちは感心している場合じゃない。十五分待つってことはやっぱり「23:10」に飛行機を降りて…と考えていたのに、次のアナウンスが流れた時すでに時刻表示は「23:20」を回ってました。

「まだまだ時間がかかる見込みです。お手洗いを開放しますので必要な方はお使いください」

……ああ、終わった。もうこれで乗り換えは三十分どころか、二十分を切った。完全にアウトです。諦めて空港で一泊して新規チケットを買うしかないのか。それとも二十分でもチャンスはあるのか?いや、さすがに無理か。

意気消沈してトイレに向かい、とぼとぼと出てきたらフライトアテンダントさんたちが溜まっている場所に出くわしました。

「あのう、アドバイスをいただきたいんですが」

と話しかけましたところ、男性フライトアテンダントが振り向きました。

と同時に、バラが舞いました。

うわ、死ぬほどハンサム。息と時が止まりました。

スロー再生。アーモンドアイ、つるつるスキン、完璧な七三ヘア。どこぞの王子が振り向いたかと思った。このピンチ時にそぐわない、今回の旅ナンバーワンの男前ベトナム人の登場です。くらっ。あぶな、倒れるかと思った。

……ちゃうねん、私、今、それどころじゃないねん。と、気を取り直して。

「質問です。LCCって、追加料金を払えば少し遅くチェックインさせてくれるディレイチェックインというシステムがあったはず。他社で恐縮なんですが、このあと国際線の乗り換えがありまして。通常、ゲートが閉まる何分前まで可能なんでしょう、私にまだ間に合うチャンスってあるんでしょうか」

まっすぐ真剣な眼差しで私を見つめる理知的なアーモンドアイ。ああ素敵。吸い込まれそう。愛想笑いは一切しないプロの顔。されど、唇の先が常に微笑んでいます。やばい、普通に本気でかっこいい。

「少なくとも、出発時刻の十五分前に搭乗ゲートが閉まりますので」

パスポートとフライト予約番号を見せてください、と私の行程に目を通し、次のフライトが「00:30発」と気づいた瞬間。王子、ハンサムすぎる顔を上げて真剣な眼差しでこう言いました。また、バラが舞います。

「普通なら希望はありません。ですが、この航空会社、僕の友人がいるので、今から電話でチェックインできるかあたってみましょう」

え。そんなんできるんですか。

実はこの機内のフライトアテンダントの責任者だったらしい彼。すぐさま何か他のフライトアテンダントに指示を出したのち、スマホで電話をかけ始めました。ベトナム語で何やら話しながら、トイレに向かう他の乗客が私にぶつかりそうになると、ささっと片手を出して守ってくれたりして。ほんとに王子じゃないですか。くらっ。

テキパキと荷物状況などを必要なことを私に確認しながら、電話をかけ、切り、かけ、切り、かけ、切り。

「荷物は預ける時間がないと思います」

くるっとまた私へ向き直って説明を始めたアーモンドアイ王子。と同時に、他女性フライトアテンダントが飛行機がやっとドアを開ける準備ができましたと報告にきました。

「すぐ行く。今これ最重要案件だから」

もいっちょ、くらっ。

「荷物をピックアップできたら、シャトルバスじゃなくて申し訳ないけどタクシーに乗って。少しだけ早いですから。タクシーは乗れますね?」

はい……!

「国際線ターミナルについたら、チケットを出してもらえるように話をつけておいたからチェックインカウンターB3に直接行ってください。荷物は機内に持ち込むしかありません。担いでゲートへ向かって。で、十キロのボストンバッグは女性が担いで走るには意外と重いから。覚悟して。できますか?」

はい……!

「他に質問はないですか?大丈夫ですね?」

はい……!

「無事に乗り換えられるよう祈ってます」

はい……!

「グッド・ラック」

そしてドアを開けに行った王子、指差し確認ののち、ジリジリと通路でイキっていたおじさんを制して、私を手招き一番に降ろしてくれました。さようなら、アーモンド王子。一生忘れない。あなた、本当に男前だったわ。間違いなく、いいヤツだし、プロ以上のプロだったわ。ちょっと、余韻が。男前の、余韻が、すごい。

表示は「23:38」。

タラップを降り、空港建物までの移動バスに乗せられ、移動し、降りたらいざ!ここからがダッシュです。バゲージのピックアップ場所、すでにコンベアは回っています。と思ったら、私の荷物だけがすでに一周して再度吸い込まれそうになっていました。カーゴさん、すご!はや!まじでサンキュー!猛ダッシュでギリギリゲットし、戦場の兵士がごとく肩に担ぎ。さあ、走るぞ。

そのままドアを出ると生ぬるいハノイの空気の中、談笑しているタクシーの列が見えました。まるで映画のワンシーンです。大声をあげる私。

「インターナショナルターミナル!ナウ!ライト・ナウ!アイハブノータイム!ナウ、ナウ、ナウ!」

誰や、誰が乗せてくれるんや!と指差したら、先頭に白タク。ああ、ちくしょう、こんな時に。緑のタクシーはメーターが付いているけど白タクはついてません。ニヤついたドライバーが「二十万ドン」と法外な値段を言ってきました。おのれ、五分の距離を。四十分走ってくれたブラザーとほとんど同じ値段が欲しいだと?しかし交渉している暇はありません

「なんぼでもええわ!ナウナウナウ!動け動け!」

ニヤつき運転手、荷物を手伝いもしやがりません。とにかく急いで!着くまでに財布をみたらちょうど二十万ドン札しかなくて、仕方なく握り締めながら国際線ターミナル到着!荷物を自力でおろし、くれてやるわいとお札を渡したら、運転手びっくりしてます。

「え、言ってはみたけど、ほんとにいいの」の顔つき。って、結局お前もまあまあ根がいいヤツじゃないか。アホか。こっちは時間ないねん。

荷物を引き摺り下ろし、振り向きもせずチェックインカウンターB3へ。チュートリアル徳井氏にそっくりのスタッフさんに「もう閉まってます」と一回跳ね除けられるも、事情を説明したらため息混じりに手続きをしてくれて、けど途中からテンポを上げて「荷物は預かれないから、とにかく急いで」と追加料金をとる暇も惜しんで発券し、送り出してくれました。あああ、徳井さん!あなたもいいヤツ!

夜中のハノイ空港、ごった返しています。特にセキュリティーエリア、韓国人の老人会グループでいっぱいでした。

「おかあさん、靴も脱ぐの?」

「脱ぐって言ってんでしょ!」

「ウェストポーチはぁ?」

「だから全部って言ってるでしょうが、あなた!」

「トレイ、もう一個とってぇ」

などと推定の会話がデフォルトで喧嘩腰に聞こえる韓国人のじさまばさま達をおしのけ、「ごめんなさい、出発時間が、出発時間が!」と先を急がせていただき、なんとかピーピー鳴りまくるセキュリティを抜け。

パスポートチェックの担当者にぎろりとにらまれながら、なんとか脱出。さあ、あとは搭乗ゲートまで行くだけ!と思ったら、よりによって一番遠い搭乗ゲートだったとここで気づきます。

「うわああああ(泣)」

表示は「00:10」。メゲている時間はありません、あと五分で搭乗ゲートが閉まります。よし、と荷物を担ぎ直し、走り始め……たものの、一分で足が止まりました。ぜえ、ぜええ、無理、十キロ、ほんとだ、めっさ重い、ぜえ、ぜえええ。

フォーを吐き戻しそうになっている私のそばに、スーーーっと音もなくカートが寄ってきて、ピタリと止まりました。顔を上げると、つなぎを着た笑わない大黒様みたいな人が乗っていました。

「ぜえ、乗って、ぜえ、いいん、ですか、ぜえ」

こくり、とうなづいた大黒様。よいしょと荷物を乗せて私も乗り込んだら、スーッと音もなくカートがUターン。あっという間にターミナルの一番端っこの搭乗ゲートに到着していました。大黒様は私を下ろすと、また音もなくスーーっと去っていきました。何、あれ、本当に神様だったんじゃないの。

ここで時刻表示は「00:13」。

泣くかと思いました。

ありがとう。本当にありがとう。ベトナムの皆さん、数珠繋ぎでありがとう。

スパのベトナムガール。タクシーのブラザー。国内線ゲートのメガネちゃん。ダナンのカーゴさん達。特に、アーモンドアイ王子。そして、ハノイのカーゴさん達。白タクのニヤつき運転手ですら。さらにベトナムの徳井さんと、極め付けのカート大黒様。

一生恩に切るぜ、ベトナム。どっかで必ず、返します。いいヤツ数珠繋ぎ、本当にありがとうございました。

 

結局ピッタリ三十分で、乗り継ぎ。いや、無理だから、こんなの普通は。

LCCハ遅延ガ怖イトハ聞イテイマシタガー。

ホントニコワカッタヨー。

しかしですね。私のような困った人間に対して、ベトナムの人たちの対応力というか、融通の効きっぷりと言うか、総じて人情というか。

「何かあったら責任とりたくないんで」という発想がとって変わる前の日本、みたいな。そういう体験を、久々にしました。

ニコニコ笑顔の見せかけの優しさということじゃなく、困った人を助ける力を惜しみなく使ってくれるという実質的な優しさがすごかった。

まあ、交通ルールとか無茶苦茶ですし、一家四人でバイク乗ってたり、タクシーが全部ワイルドスピードなのも本当にやばいっちゃやばいんですけども。ルールが全てじゃないという発想、「やればできることってあるでしょ」という前提、みたいな考え方。私には合っていた気がするなあ。


You may also like

VIEW ALL
Example blog post
Example blog post
Example blog post