LOVEのひろいばなし Vol.74「パンプキンおじさん」

ハロウィンが来て、去りました。いやはや、十一月です。

今年のハロウィンは、友人たちのおかげでなんだか少しいつもと違うハロウィンでした。とはいえ仮装をしたわけでもないし、パーティもしてないし。ちょっと疲れも出ていたので、大事をとってとにかく寝て過ごした週末でした。

正確には、ハロウィン後の時間が、なんだかじんわりいい時間だったのです。

気付けば大人になってからのハロウィンは、いつしか「渋谷には近づいてはいけない日」「薄着コスプレ女子が風邪引く日」としか思わなくなっている自分がいました。本来の由来も知っているし、アメリカ在住時代にはトリックオアトリートも経験しました。中高生のときは仮装して登校していたから楽しい思い出も少なからずあるのだけど。

特に今年は韓国の痛ましいニュースも飛び込んできましたので、胸を痛めていた人も多いことでしょう。私も、もう人が亡くなるニュースはひとつも見たくないです。そんな気持ちもあって、ぐずぐずと布団にまるまって週末を過ごしておりました。

明けてハロウィン当日の月曜日はおかげさまで元気に仕事しつつ、現場で会った数名の子ども達にはグミやらチョコやらを配ってあげる機会に恵まれつつ、とはいえ何か特別に心を使うようなこともなく。

そんな中、いそいそと帰宅して仕事をしていたら。アメリカ人の友人から「かぼちゃをジャックオランタンに仕上げました」と、なぜかカボチャ内部にズームする動画とともに写真が送られてきました。まずまず大きなかぼちゃで、内側にキャンドルも灯っています。とてもよくできていたので、ほほうと感心しまして、これどこに置いてるの?と聞いてみました。

夕方まで玄関に出しておいたそうな。で、夜は家の中で電気を消してかぼちゃをリアルランタン代わりにして楽しんで、夜中はまた玄関に出しておくんだ、とのことでした。え、じゃあ結局数時間しか自分は楽しめないじゃない、と思いましたら、「そんなことない!」と説明してくれました。

「日本で暮らして長くなってきたけど、毎年、こうしてカボチャを外に出すんだよ。近所の人たちもハロウィンで季節が移り変わるのを感じられるでしょ。あそこにかぼちゃがあったよと、家族と楽しく話すかもしれない。もしかしたら近所の子どもが見に来るかもしれない」

トリックオアトリートと言いながら近所を回る風習は、少しずつ日本でも広がってきてる気もします。「一応玄関にチョコレートやらキャンディも用意してあるの、ふふふ」といじらしいこの友人。下町木造アパート、一人暮らしのおじさんです。ウケる。

通りすがりの小さな子が「コワイー」と言って歩いて行ったのは聞こえたんだそうです。それもそのはず、このカボチャ、本家ハロウィンの不気味さが醸しだされているタイプのジャックオランタン。全然かわいくないのです。写真を見た私も内心「そらそうやろ」とくすりとしつつ。

ただ、ものすごく今年は大きな後悔があるというのです。あとから考えてみたら、さっき遠く小さな声で「コンニチハァ……」と聞こえた気がしたんだそうな。でも他の大人の声もしていて、特にウチに来たわけじゃないと思ってしまったそうです。ちょうど料理をしていて手も離せなかったのでドアを開けなかったけれど、小窓から気配はした、と。

あとになって考えれば考えるほど悔やまれる。あれは初めてトリックオアトリートを回って勇気を振り絞って声を出した小さな女の子だったんじゃないか。ドアを開ければよかった、買っておいたチョコレートもキャンディも、袋ごと全部あの子にあげればよかった、もう後悔のあまり眠れないといいます。もう一度いいます。この友人、下町木造アパート、一人暮らしのただのおじさんです。ウケる。優しい。

本当に小さなオバケだったのかもよ。かわいい都会の不思議現象、そう思った方がむしろハロウィンらしくていいんじゃない、と返したら「それは思いつかなかった!ふふふ」と喜ぶおじさん。

この大都会東京の片隅に、いつかは子どもだったこんなパンプキンおじさんがいることに、忙しなく一日を過ごしていた私の心は思いがけず和んだのでした。

そして次の日、いつも通りラジオに出勤し、みんなどのくらいハロウィンやったんだろうと思って娘さんがいる友人の作家さんに「仮装はしたの?」と聞いてみました。

「プリンセスとかじゃないんだよね。かぼちゃになりたいっていうの」

特に外には行かなかったそうですが、自宅の玄関に立つ小さな女の子の短い動画を見せてもらいました。ぽこぽこのかぼちゃコスプレを着て頭に小さな葉っぱを生やし、鏡に映るセルフパンプキンをしばらく見つめてから。

「うきゃきゃきゃ!」

ただただ嬉しそうにケタケタ笑っている四歳児。

……なんだ、この幸せは。

急に、泣きそうになってしまった。

私の心にもぽこん!とかぼちゃが生まれて、その中にランタンの明かりが灯ったかのごとく。とても暖かい気持ちになっている自分がおりました。

ハロウィンって正直そんなによくわかんないと思っていたけど、本来はそういう日なのかもしれないな、と。来年は、わたしもかぼちゃをランタンにして、玄関にチョコでも用意するかしら。

私なんてなんにもしてないのに。あとから突然いいハロウィンになってました。ありがとう、優しい友人達よ。

 

私が子供の頃アメリカに住んでいたのはたった一年なので、本場ハロウィンでご近所のトリックオアトリート巡りをしたのは一度だけ。すごい楽しかったなあ。

アメリカのお菓子は色々えげつない味がするものもあるので、甘いもの自体にはそんなに興味がなかったけれど。近所の仲良しアンディ君とローレンちゃんと一緒に、この仮装行事に参加できるというコミュニティー全体のそわそわわくわく感はよく覚えています。

「えっ!お母さんも仮装しないといけないの!?」

我が家初めてのハロウィンです。私も英語がおぼつかない時期。当日になって学校から帰宅して「多分そう言われた」と相談したら、母が焦り出しました。

「聞いてないんだけど。ほんとなのそれ」

「うん。行く人はみんなやらなきゃいけないって言ってた(ような気がする)」

黒いワンピースやらショールやらを適当に着込めばそれっぽくなるかしら。ぶつぶつ言いながら母は準備を始めました。アイシャドウ黒っぽくアイラインもしっかり引いて、ちょっとはみ出して目の下にクマでも作って。黒いロングブーツをはいて。中学一年生だった自分が何に仮装したのかは正直覚えていないのですが、ええ、母は確かに魔女でした。

即席魔女、なんだかひらひらとしたものを風に踊らせつつ集合場所へ。いつも一緒にスクールバスに乗っていた友達、そしてみんなのお母さんたちが待つ近所の待ち合わせ場所に我々が到着しますと、歓声が沸き起こりました。

「ちょ……ちょっ!ちょっっ!!!!」

保護者は一人として仮装しておりません。みんな普通です。コートとか、帽子とか、思いっきり普段着。我が母だけがただ一人やる気満々の魔女になって登場。仮装しているのは子ども達のみ。母をガン見しています。「ワオ!」と親御さん一同も拍手で出迎え「やるじゃない」と褒められていますが、そんなアメリカ人の輪の中で誰よりもホリの深い顔になってしまったジャパニーズ魔女、ろくなリアクションもできず。

「ははは、いやいや、どうもー、お世話になってます、ハロー……(ぺこぺこ)。ちょっと、わざとじゃないでしょうね、あんた、嘘じゃないのよこれ」

私に耳打ちしてキレていた母が超面白かった。

その記憶が一番鮮明な九五年です。私のハロウィン、ベストメモリー。

半分くらいは当日の私もわかっていた気もします。「来る人はみんな仮装って言われたけど、どっちかというと大人は仮装しなくていい気もする、けど、してもいい気もする……あ、もう訂正できない。まあいいや一人だと恥ずかしいから母にも仮装してもらおう」的な。

写真残ってないのが悔やまれます。「写真とかもう、いいから。とらなくていいから」と言っていた、引きつり笑いのオリエンタル魔女、未来で見たかったなあ。けけけ。


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