LOVEのひろいばなし Vol.72「秘技!さよちゃんの行列流し」

名古屋のさよちゃんは、何匹もの猫と暮らしています。この方が、マイナスな発言をしているところを私は見たことがありません。

先日、このパンデミック以降、名古屋はZIP FMのイベントにお呼ばれしました。東海道新幹線に楽器持って乗るのも本当に久々です!休日のヤクザか、前のりゴルフ付き出張へ向かっている会社員か、“新幹線本日の隣人”こと白髪いがぐりヘッドおじさまの隣に座ること一時間半、久々に名駅で下車!愛知県へ着地です、しゅたっ。

ふふふ。いつのまにか私も名古屋駅のことを、「名駅=めいえき」と当たり前のように呼ぶようになりました。いっちょまえ。

久屋大通公園で行われたZIP-FMのイベントは、愛知県内の酒造がブースを並べる日本酒のお祭りでした。素晴らしい企画。FMならではの「おしゃれ感」と、ラジオならではの暖かい地元還元っぷり。このバランスがすばらしく、楽しい美味しいイベントでした。そこにZIP FMの周年のお祝いと感謝のやりとりをということでこれまでご縁のあるアーティストが数組呼ばれました。イベント自体三年ぶりだそうで、そのタイミングでこんなふうにお声がけいただけること、もう本当にありがたい限りでした。

名古屋って、東京から来るアーティストはだいたいは日帰りができてしまう距離なので、お仕事として宿泊できることが実はなかなかない街だったりもします。ツアーもそう。楽しい夜を終えて、本当ならみんなで労い合いたいけれど、そのままツアーバスで移動して関西に向かったりすることもしばしば。

この日も、本当は日帰りだったのですが、私は翌日に愛知県豊田市にある父方の実家へ墓参りを予定していたのでホテルをとっておりました。

楽しいイベントも終わり、みなさんに御礼申し上げながら、またね、またね、が飛び交う楽屋出口で。さよちゃんが隣に立っていました。

「もしよかったら。予定とかなければ。夕飯、軽くいくのどう?」

さよちゃん、快くOKしてくれました。いっちゃういっちゃう?だったらせっかくだし帰らなきゃいけない社長も新幹線は少し時間を遅らせて、一緒に行く?行っちゃう?

私、さよちゃん、社長、ZIP-FMの長らくお世話になっている偉い方(なのにふとぴーとしか呼んでない)と四人です。バンドマン界隈ではおなじみの、名古屋の中華料理の名店「味仙」にいくことになりました。やったー!まさか今夜、味仙で食べられることになるとは思ってなかったー!と浮つく私。

さよちゃんは、もともと東芝EMIのプロモーターさんでした。デビューした頃の私のバンドが所属していたレコード会社です。とはいえ、別レーベルだったということもあり実質彼女が私の担当者だったことはありません。なのに、なんで話すようになったんだっけ?とあとできいたら「え?好きだったから?」と豪快に笑ってくれました。気づいたらバンド解散後も、ソロデビュー後も、そして、さよちゃんがレーベルを離れてフリーランスのプロモーターになってからも、私たちのご縁は途切れておりません。今は自主レーベルの私ですので、名古屋のライブやラジオのブッキングなど、直接的にさよちゃんには大変お世話になっています。

で、「名古屋の江戸っ子」みたいなのって、なんていうんでしょう?要は名古屋っ子ってことなんですけども。さよちゃんさん、非常にちゃきちゃきしてらっしゃるんですね。ちゃかちゃかともいう。仕事も早い。

見ているだけで気持ちがいい、潔い。仕事をしてても楽しい。人の悪口なんて聞いたことがない。業界の人がやりがちな、仲が良いことをアピールするために誰かを小馬鹿にするような話し方も一切ない。さらに、今回のように、味仙の前に長い行列ができていて仕方なく我々が並ばなきゃいけない時ですら、文句すらないどころか、見事にスカッと解決してくれるのです。

「ひええ、こんなに並んでるの」と、根っからの行列嫌いの私が一瞬で目を泳がせるが先か、同じく「嘘だあー」と嘆きながらも一瞬で状況判断を下したさよちゃんが「いや、ここテーブルが多くて回転が早いから大丈夫」というが先か。

「さすが。じゃあ並ぼう。せっかくの味仙だし!」

入り口からぐるりとまわり、角を曲がった路地の先まで。行列の最後尾に私もギターを抱えて並びました。社長はトランクを抱えてます。あとから合流のふとぴーは颯爽とチャリで登場。さよちゃんはというと、ものの一、二分雑談したあと、「ちょっと見てくる」と店内に入って行きました。

「はいー、はいはい、はいはいーーーー」

なんの魔法を使ったのか、さよちゃんが戻ってきたと同時に行列が動き始めました。

私もギターを持ってひょこひょこと前に進もうと思ったら、この長かったはずの行列、動きはじめたどころか、ちゅるちゅると消えていき、なんなら私は持ち上げたギターを床に下ろすことなくそのまま店内に吸い込まれて十九番テーブルへと着席しておりました。え、何これ?通路に油ひいたぐらいスムーズじゃない?

結果、行列、速攻解消やん。さよちゃん、何やったの。どうやったの。

「おかしいと思ったんだよねー!ケラケラ」

まず、中を見たんだそうです。テーブルはたくさん空いている。従業員のみなさんもそこそこに忙しそうだけど、普通。というか、店の内側の待合用のいすは全部空いている。ってことは、これ、何も待ってない。ただみんな入ればいいだけじゃない?

味仙をご存知の方にはお馴染みですが、外国人の店員の方が多いお店です。不可解に思ったさよちゃん、まず店員さんにちゃんと確認で聞いたんだそうです。外の行列、今から中に入れてもいい?と。そしたらOK!OK!と即答だったそうな。

からの、行列に並ぶ見知らぬ人たちを誘導。

さよちゃんのおかげで行列は動き始め、それを受けた店員がお客さんをご案内。ここまで、ものの二分かかってません。味仙の激うま中華メニューページを開いてよだれをじゅるじゅるするまで、私タイムワープした?

“秘技!さよちゃんの行列流し”、すごいです。

そりゃもう皆で拍手です。そしてさよちゃんに乾杯です。お見事!

さて!ここで突然ですが、クイズです。正直にお答えください。あなたは今、何を思いながらこの話を読んでくれましたか?

A. おおお、さよちゃんすげー!

B. 味仙、一回も行ったことない、食べてみたいー!

C. 店員なにやってんだよ、ちゃんとしろよ

D. 店員さんが外の状況を把握してご案内すべき。行列の解消はそもそも店の責任ですし、外が見えていない店員の教育をまず徹底してほしい

大多数を占めるであろうA、Bの方々、なんつうか、ありがとうございます(あんたみたいなんがこの世の救いなんやで、涙)。Cの方、すみません、きっと気の合う人が他にいます、私はお付き合いできません。Dの方、すみません、人生のお会計は別テーブルでお願いするかもしれません、だって私の伝えたいことはそういうことじゃな……うっうっ、涙。

さよちゃんの話に戻りますが、ほんとにすごかった。

席についてからの我々、もちろんにぎやかににこやかに会話が盛り上がったわけですが、当の本人、笑いながらいいこと言ってました。

「いやいやいや、見ればわかるし、考えればわかるし、話せば通じるだけだからあー!!」

どシンプル。

その昔、日本人ほど行列に並ぶのが好きな人たちはいないと言われていたそうですね。これはまたその2022年versionのような、さらなる退化を見た気がしました。多分ですが、あの行列は「なんとなく」できただけ。スマホ片手に周りを見ずに前の人が並んでるから右に倣えで……、やばい、私も並んじゃったよ!!!笑。

象徴的に言ったらこういう価値観の行列というか、行列的な価値観というか。あちこちにあるんだろうなあと想像が容易いです。こわいこわい。

実際のさよちゃんは身振り手振りで、ほとんど「はいー、はいはい、はいはいーーーー」としか言ってませんでしたけども、“秘技!さよちゃんの行列流し”、そこにある極意たるやです。

ひとーつ!人にキレずに、仁義切るべし!

ふたーつ!指で示さず、足を動かーす!

みーっつ!行列流して、人情流さーず!

このたびは、間近で勉強させていただきました。みなさんもぜひご一緒に。

 

いやー、スカッとした。本当に見事でした。

さよちゃん、この方、出会った時から、とにかく笑顔がまぶしいです。

当然ながら音楽が好きで、距離感が近いのにミュージシャン全般にリスペクトがあって、いつ会ってもなんだかたくましくて優しくて、生きるアイデアが豊富で、プロモーターにしては好き嫌いが人よりもはっきりしていらして、笑。他にもたくさんのアーティストに信頼されているわけです。

さよちゃんのシンプルさがすごいと思うのです。

解決すればそれでいいのだ、というスタイル。

楽しもう、のスタイル。

「いやいやよく来るお店だからさ!なんかわかるじゃん!」とはいうけど、知ってようが知らなかろうが。この日は、仕事でもないのに、貴重なパワー使っていただいちゃった。本当にありがとうございました。

さて、さっきのクイズの話ですが、 ひろいばなしの読者さんにCさんはまずいない気しかしません。「店員なにやってんだよ、ちゃんとしろよ」って私のライブ会場で言ってる人がいたら、私が MC中に住所と本名を伺って一曲アドリブで作っていじり倒すかもしれません。タイトル、「言い方ってあるやろ」。

でも、Dさんは、いらっしゃるかもしれない。というか。

本来そういう考え方をする人じゃなくてもですよ。ここ最近の世の中に対峙するために身につけた防御法として、Dっ気を持ち合わせている人ぐらいはいるかもしれない。

外の世界は Dっ気で満ち溢れている場所にもなってきました。大事なことはそこじゃないねん、てなるやつ。そんな「正論風・論破マウントしたひとがすごい系の空気」。もしかしたら、これにも“秘技!さよちゃんの行列流し”の極意は効くのかもしれません。

いつの日か、空気に飲まれて私自身までがDババアや 、友人などがDジジイになることがありませんように。謎の行列を流し、うまい!うまい!ハフハフって、シンプルに幸せに味仙で食べている未来が続きますように。

その日も味仙の辛いあれこれに舌鼓を打ち、実に気持ちの良い宴を共にしてくれたさよちゃんですが、そんな彼女が「いやあもうほんとに気持ち良いんだからああ!」という場所があるんだそうです。

長野は上高地。

私、超〜行きたくなっちゃってます。


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