LOVEのひろいばなし Vol.71「温泉三万円事件」

LOVEさんの友人のおちよちゃんは、映画関係のお仕事柄か、物語を集めるのが趣味なようです。

「あなたの人生、プライベートが若干いつもドタバタするからね……ドタバタ劇だよね、ほんと」

大学時代、および、二十代後半で再会してから、なんとおちよちゃんは半笑いで歴代のドタバタ劇のメモをとっていたんだそうで、それをLOVEさんが知ったのは去年のことです。全く聞かされていませんでした。

「いつか使えるんじゃないかと思って。メモとりながらこんなくだらないこと、どこにも使えないな、とはずっと思ってるんだけど」

と打ち明けられたメモの存在。まじか。何が書いてあるの。読み上げていただきました。

「ラーメン事件。年金事件。うんち事件。隣人変人事件。冷凍豚肉事件」

なんなんだそれは、と。ほぼほぼ、私、まったく覚えておりません。昔すぎて、おちよちゃんもメモの解読ができないものもあるそうです。

そのうちのひとつ、”温泉三万円事件” を今日はご披露したいと思います。LOVEさんがお付き合いされていた殿方と温泉に行った時のお話です。

それまで、お仕事一辺倒すぎたLOVEさんは、彼氏というものと温泉に行ったことがなかったといいます。三十代になって初めて高級旅館に連れていっていただく機会が巡ってきたそうです。もう、今日のひろいばなしは真面目に読まないでください。笑ってやってください。

震災直後に相馬市で出会った当時の高校生が大学生になって「彼氏と箱根いってきたのー!」なんて話を聞かされるたびに「良かったねー!(私そういうのいったことないけど大人としてこれでいいのだろうか……)」と肩身の狭い思いをしていたというLOVEさんです。おちよちゃんいわく、「いい意味でお人好し、人にお金を払ってもらうとか、お姫様のようにずっと黙って座っていることが全くできない」 そうですから、そもそも「彼氏に連れて行ってもらう温泉」というものがどういう現象なのか、入り口からわかっていない、と。

LOVEさんの証言によると、そもそもバックパッカーのような旅や、お湯が出ないタイのワイルドな宿などでも平気なタイプ。とはいえお仕事などで立派なホテルに泊めていただいたこともありますし、高級宿に慣れていないわけではありません。ただ、お相手も決して裕福な方ではなくむしろ逆だと思っていたので、最初に自分からカジュアルなお宿をご提案されたんだそうです。

ところが、せっかくですから、と、殿方の方からご用意してくださった旅館がそれはそれはものすごく洗練された宿だったとか。箱根の隠れ家のようなプライベート空間、こっそり定価を調べてもとんでもなく高価なお宿だったそうです。

こうなってくると、LOVEさん、わからないのです……!

いくらお支払いするが妥当なのだ……?

どのタイミングで、どう包んで差し上げれば……?

行ってみると、まるで異世界です。板張りの美しい和建築、静かなロビー。松がたたずむ庭も慎ましくかしこに本当に手入れが行き届いていて、家具も素敵で。なんと気のいい場所なんでしょう。小上がりでまずお迎えのお茶と団子を出していただいて、LOVEさん、ぼうっと庭を眺めていたらあまりの環境の良さに思わず目尻に涙が滲んだそうです。こんなに丁寧に良くしていただいて、ううう、と。

という話を、おちよちゃんは完全にクールな顔で聞いてました。

「あ、うん、そういうとこで泣くよね。歴代いろんなあなたの涙を見てきたけど、本当に見るたびに私冷静になる。あ、泣いてるなあ……?ってなる。おもしろいよ。いいよ。で?」

おちよちゃんからしたら、私の提案を蹴って彼氏が提案してきたんだから彼氏が持ってくれるつもりだったに決まってるじゃん、だそうですが。そうか、そういうものだったのか。

おちよちゃんに詰められました。そもそもLOVEさんが提案したお宿はいくらだったのだと。たしか二人で3万円ぐらい。で、この高級宿はいくらぐらいだったのだと。上がわからないけど十万円〜二十万円ぐらいだったのでは、と。

もはや本日はタイトルでバレておりますが、結果的にわたくしはそれでも足りないのは承知の上で、三万円を包んだのです。事前に「このたびは御礼申し上げます」的なお手紙を書き、封筒につつみ、翌日宿を出たタイミングで帰路に着く前に、「あのう、お渡しすること自体失礼だったらいけねえ、とは思いながらも」と語尾がおかしくなりながらお渡ししたのでした。

え、いらないよ、ってもちろん言われたのですが、そこは私の中の小さなサムライが「いやいやいや、一度出したものはひっこめられやしやせんよ!」的な感じで出てきてしまうので、頑なに「いやいやいやもうもういやいや」なんつってやりすごしたのでした。

おまけの話ですが、そういえば、一日箱根散策を楽しんだものの、なんとなーくの違和感が残ったのが、都内に戻ってからのテイクアウトのカレーを買ってきてと言われて私が買いにいったこと、さらになぜかTSUTAYAに寄ってジブリのボックスセットを買っていたこと。なんで今?とは思ったものの、なんとなく時は過ぎ。

その後、仲良しの人たちやお世話になった人たちにはかたっぱしから「そいつはやめとけ」を連発されたぐらい、この殿方、後に、実は色んな意味で懐が狭めの方だったということがわかります。

実はあの高級宿、仕事のつて?かなんかで、ものすごくご親切な御礼価格でご招待いただいていたんだよ、とあとになってにこやかに言われたことがありました。ぼやかしてましたが、三万円ほどだったそうな。

……結果的にサムライが全額出してんじゃねえか。っていうか、おい、カレー。

おちよちゃん、この話が大好きだそうです。当時もものすごい笑ってましたし、「なんで三万円なの?なんでつつむの?いらないから!」と爆笑していました。その後メモをとったんでしょうね、「温泉三万円事件」。

すぐにお別れした彼ですが、とはいえわたくし、心より感謝しております。こういう人と一緒にいてはいけないのだ、それを選ぶようなこういう自分ではだめなのだ、と気付かせていただき、このあと私の自尊心がしっかりとリカバリーした案件でしたから。笑っていただけたなら幸いです。え、あんまり笑えない?

同年代の女の子たちはそんなものはとっくにクリアしてきたのだと気付かされた案件でもあります。お若い読者の皆様には、「私なんかに言われなくとも」でしょうけど、早いうちに彼氏との温泉というハードルをクリアしておくことをおすすめします。

そんなこんなで、今年も寒くなってまいりました。温泉でも行って、温まりたいものです。

 

ジブリBOX、買ってんじゃないよ。

お金の話ですみませんね。いやあね、ほんと。

温泉の話をしましょう。

別件ですが、いつか行ってみたい温泉があります。青森県の酢ケ湯温泉。酸性が強い源泉で、本格的な湯治に使われているとか。一日やそこらじゃだめよ、行くなら一週間とか行って完全に肌を生まれ変わらせるといいよ、と聞いております。超興味ある。

あと、雪見温泉が好きですので、冬はやっぱりいいですね。とはいえ、そんじょそこらの雪じゃなく、秋田や青森、山形などの背丈ほども積もるような雪に囲まれた雪見温泉で、外界を完全にシャットアウトさせるような経験もしてみたいです。

二月とかでしょうか?

「ごめんなさい、雪で、帰れない!」って一度言ってみたいだけかもしれません。

おちよちゃんともまた旅がしたいです。二月に温泉、勝手に目標にするかな。


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