LOVEのひろいばなし Vol.53「タケルくん、白鳥に」

父「ちょ、タケル、にいちゃんは」

タ「え?遊んでるとおもうけど?」

父「とうちゃんな、にいちゃんに用事あるねん、ちょっと呼んできたってや」

タ「ええけど。にいちゃあーーーん」 タケルは双子の次男坊です。

兄「おやじ、なんやねん」

父「おう、お前、ちょっと頼まれてくれへん?なんや噂でな、岐阜にどえらい美女がおるらしい。ちょっと探りいれてきて父ちゃんとこに連れて帰ってきてほしいねん」

兄「ええええ!?また?とうちゃん、もう、やめとき。子どもすでに80人やで、もうやめとき」

父「ええから、いってこいや!!」

兄「もおおおお。しゃあないなあ」

父の命令を受け、絶世の美女探しにいくことにした兄。ですが、いやはやいざ岐阜に行ってみましたらお目当ての美女が本当に美人だったもんですから、うっかり手をだしてしまいました。なんなら結婚しちゃいました。

「こらあかん、好きになってもうた。しゃーない。父ちゃんには違う女の人をあてがっておこう」

アドリブをかまし、実際、テキトーに奈良に連れ帰った別人、そこそこの美女。

「いやいやいや」

即バレ。父、ブチギレ。

父のあまりの剣幕に、参った兄はすぐさま家族の食事の席に姿を見せなくなりました。たぶん部屋でこっそり雑誌でも読みながら米をかっこんでいます。

父「おい、タケル、にいちゃんは」

タ「え、知らんけど。さすがに気まずいんちゃう」

父「気まずいも何も。おまえ、ちょっと行ってあいつに言い聞かせてこいや。思い知らせたれ」

タ「えええ、僕が?なんでよ〜」

父「ええから行ってこい」

というわけで、弟タケル、にいちゃんを「言い聞かせ」に行ったのだけど、それ以降もまったく姿を見せない兄。父もさすがに心配になってきました。

父「おい、タケル、にいちゃんは」

タ「言い聞かせておいたで」

父「じゃなくてなんで夕飯にけえへんのや」

タ「せやから言い聞かせたからやんか」

父「おまえ、どない言い聞かせたんや?」

タ「え?朝方かなあ、にいちゃんトイレ入ったところを、まあ、後ろから?」

父「……それ、お前、やってもうてるやないか!!!!!!」

そろそろお気づきの方も一部いらっしゃいますでしょうか。タケルくんは、ヤマトタケルノミコトです。そしてその父は景行天皇。古事記や日本書紀に出てくる日本神話の1ページです。

先日、ちょっと遠出して大自然に触れたいなと、埼玉県は奥秩父に行ってきました。関東一のパワースポットともいわれる三峯神社へ。いきすがら、どういう神社かなと調べてみましたら、ヤマトタケルノミコトが建てた神社だとか。

よく海外の友人達に、日本の神様について「どこまでが実在した人間で、どこからが神話なの?」と聞かれることもありますが、いつもうまく答えられません。偉いさんだったおじさん(武将とか)を祀る神社から、元祖日本神話の太陽神、天照大神までありますもんね。

……ていうか誰だっけ、タケルくん。

というわけで、この機会に、タケルくんが本当に実在した人物かどうか、検証してみたいと思います。みなさん、どうぞご一緒に。むしろ、疑いをもって今日は読みすすめてくださいね。

西暦72年生まれ。すでに2000年前の話っていう時点で、危うい。

それはリアルなのか、それとも神話なのか。「んなことあるわけないじゃん」なのか「まあ、ありうる」なのか。

舞台は、奈良。なのでまず、関西弁はあながちハズレではないはずです。なんなら関西弁で古事記を書いておいてほしかった。

もぐもぐ平気で夕飯をたべる弟。それを見つめて慄く、父。

父「ていうか、おまえ、ヤバい奴やん……」

次男坊のとんでもない素質に気づいた父、自分の近くにこの獰猛な息子を置いておくのが怖くなったのか、今度はタケルに提案してみました。

父「タケルくぅーん、九州にねえ、なにやら野蛮な兄弟がいるらしいんですけども〜。どうかな〜?討ち取ってくるとか、そういうのは、どうかな〜?」

た「父ちゃんがいうんやったら。ええけど」

タケル、速攻、マッハで討ち取ってきました。九州に着き、酒の席にて女装して兄弟に近づき、酒で酔わせて討ち取るという戦略で。

ついでに、帰り道には西の出雲も制圧してきます。まず出雲くんと友達になり、友情の証として太刀を交換しよう!といっておきながら偽の太刀を渡し、出雲くんが「え?これパチモンやん?」と戸惑う隙に惨殺する、という方法で。

戦略家、タケルくん、もう誰もかないません。

父「ひっ!おまえもう帰ってきたんか!!」

タ「うん、そない難しくなかったで」

父「えーっと、ほなタケルくん、次な、ちょっと東のほう、行ってみようかあ〜」

タ「父ちゃんがいうんやったら。ええけど」

帰宅後すぐに次のミッションを与えられたタケルくん。ここから彼の人生はすべて流浪の旅となります。まずは先に三重県の叔母宅に寄って話を聞いてもらうことにしました。

タ「おばちゃん。あのね。たぶんやけど、父ちゃん、僕のこと好きじゃないんやと思う。辛い。しくしく」

叔母「かわいそうに。なんやしらんけど、これあげるから持っていき。ピンチになったら使うんやで」

タ「うん」

草薙剣と火打ち石。これが役に立ちました。

東に向かう途中、とある村の権力者に出会います。たぶん、ピンクのセーターを肩にかけて、ポロシャツ来てる感じの、セカンドバッグを持った昔ながらのエセプロデューサーみたいなタイプ。

権「あっちの野原にねえ、バケモンがいるのよ。退治してくれたら助かるんだけどなあ〜!退治してくれたら君の名も売れちゃうかもしれないし〜」

タ「別に、いいですけど」

ところがこれが罠でして。後ろから火を放たれ、タケル、ピンチ。

ここで息絶えるかと思いきや、そうだ、おばにもらった武器があった!と逆に火をおこして辺り一帯を焼き払ってこの難局を切り抜けます。これが今の静岡県焼津あたりだとか。ほほう!もつべきものは火打ち石をくれる叔母ちゃんです。

からの、次は東京湾。大荒れで房総半島へと渡れず、船が右往左往する中。今度は妻に救われます。

妻「私が海を鎮めてまいりますので〜」

タ「いややあ〜、行かんといて〜(涙)」

自らを海に沈めて海を鎮めてくれた妻のおかげで東京湾が凪ぎ、ぶじ関東を横断できたタケルくん。無事旅を進められるとはいえ、辛い、辛すぎる。せっかく結婚したのにね。

そんな傷心から徐々に立ち直ろうとする最中のタイミングで立ち寄った奥秩父。美しい三つの山々の中を旅したタケルくん、ここにイザナギとイザナミを祀る神社を建てよう、と決めます。

イザナギとイザナミといえば、日本のアダムとイブといいますか、もっと天上人の、元祖生みの親といいますか。妻を亡くした男が日本の元祖のカップルに敬意を示して祀る、その時の気持ちを思うと、いたたまれなくもあります。

ここからは早送りにしますが、今度は海側ではなく内陸側の山々を旅して奈良へと帰ろうとしたタケルくん。

途中、足柄山頂で亡くなった妻を思い出して「吾妻はや」=「ああ妻や」とつぶやいたことが言い伝えられています。って、怖いよね。そんなセリフが歴史書に残るって。今でいうなら、かなりのフォロワーがいるツイッターアカウントの持ち主と同等かそれ以上。4字のセリフが2000年後に伝え残るほどの、タケルの愛。誰が書き残したんだろう。

やっとの思いで名古屋あたりまで帰ってきたタケル。実は出発時に「無事帰ってきたら結婚ね」と約束していたフィアンセが待っていました。よかったね。人生、セカンドチャンス、あるよね。エビフライと味噌カツでもてなしてくれる、癒しのハニー。

ところが、タケルくんの最後は突然やってきます。つかのまのハニータイムを楽しんだのち、気が大きくなってしまったのでしょうか。

タ「次に戦う時はね、もう剣とかいらんねん、素手でやっつけたるねん」

嗚呼、タケルくんのバカ。この‘ええかっこしい’が彼の命取りになりました。妻に剣を預けて、ガチで丸腰で。岐阜と滋賀にまたがる伊吹山の神様とやりあうことにしたのです。

ていうか、まず登山ね。のぼり初めに白いイノシシとすれ違ったそうな。けど、それどころじゃないタケルくん、「ふーん。白いね」くらいでガン無視、先を急ぎます。

ところが、ガンガン登っていきましたら、大量の雹が降ってきてボコボコにされてしまいました。これはなんの因果かと思いましたら。

「ガン無視きめてんじゃねーよ」

なんと、さっきすれ違った白いイノシシこそがこの山の神様だったのです。

「素手で倒すとかいってんじゃねーよ」

山の神の怒りを買ってしまったタケルくん。色んな難局を打開してきたけど、これが最後の旅になってしまいます。

このエリアには、タケルくんが休憩した居醒の清水、歩行が困難になって「険しい(たぎしい)」と嘆いた当芸(たぎ)の地名、足が腫れて三重にもなってしまった三重村、など、タケルくんの最後の登山メモリーが地名になってたくさん残っています。

タ「父ちゃん……」

これだけの長旅をしておきながら、最後、実家のある奈良の手前で力つきたタケルくん。しゃーないね。やっぱ、調子こいたらそうなるよね。パタリ、と伏せたのち、白鳥になって、飛んでいったんだそうです。

え、白鳥?

急に?

白鳥?

思い出してください、みなさん。これ、タケルが実在したか、してないかの検証ですからね。

まあ普通に考えて「タケルが力尽きたその時、ちょうど1羽の白鳥が山から飛び立っていきました」みたいな記述を、お供していた後輩が書き残してるんでしょうよ。

で、その後輩は、たぶん「ああ妻や」を書き残した者と同人物。「先輩まじ愛妻家っす!」と感動し、その後も一緒に神を退治しにいけるくらいタケルのことめっちゃ慕ってて、「先輩まじ天才っす!」などと崇めていたに違いないのです。ですから、白鳥にでもなってもらわないと、気が済まなかったのでしょうよ。

ですが、すみません、私、関西人なので。

どうしても、ひとつ疑問が浮かぶのです。

そのたったひとつの疑問とは。

「その話、ほんまにおもろいか……?」なのです。

まったくおもろないのです。オチはどこやねんと。

もう一回いうけど、白鳥って。なんやねん。急すぎるやろ。

わざわざ2000年の時をこえて伝え残すにしては、ジャンルとその目的がよくわからない。親子の確執の話なのか、戦略家として「調子こくな」という教えなのか、はたまたラブストーリーなのか。

村上春樹氏の小説よりは意味わかるけど、そもそも笑いに長けた関西育ちとしてのタケルとその後輩ですよ。おい、お前らのクオリティはなんぼのもんなのだ、と問いただしたくなる。

作り話にしては、おもろなさすぎるのであります。故に、わたくし、これ、実在した人間の物語と捉えることにいたしました。

タケルくん。武勇にすぐれ、火防の神ともされる男。

あんたの人生、しかと聞いたよ。

奥秩父、三峯神社は実にいいところでした。よくぞ建てておいてくれた、とタケルくんに感謝の気持ちが湧きました。2000年後の私に、あんたの人生が影響するとは思わなかったよ、と胸のうちでつぶやき。人生、何があるかわからないけど、私も調子こかないようにがんばらねば、と思いました。

あと、私にも「LOVEさんまじ天才っすよ!」と、私の一挙手一投足を伝え残してくれる後輩ができたら、2000年後に神になれるのかもしれない、と思いました。持つべきものはまず、盲目な後輩かもしれません。

 

昔から多神教が好みな私としては、高校生のときにアメリカ大陸ネイティブアメリカン神話を、大学生のときにはギリシャ神話などを読んでは、「こやつら全員、お酒のみすぎ」などと面白がっておりました。ところが思いのほか日本神話に詳しくない自分に気がついて、同じく興味を持つようになりました。

そもそも東京に来てギョッとしたことがあるのですが、神社が多いということ。京都に神社が多いことはなんとなく肌で理解できたのですが、これだけ都会化したTOKYOの街の中に、区画整理にも負けずとにかく細かい氏神様があちらこちらにいることにびっくりしました。

そして、御祭神を見る癖がつきました。

そして、神社の立て看板こそが、私にとって、神話か実話かわからない日本神話への入り口となりました。

また、御祭神とは別に、奥秩父には白い狼伝説があるそうで。タケルくんを山の中で導いてくれた白い狼がいたとか。絶滅したニホンオオカミだったのでしょうね。

なので、三峯神社は狛犬が全て狼でした。可愛かった。

日本中に残るいろんな神話に興味があります。毎回、おもろいかおもろないか、でリアル/神話を判断していくと、意外とおもろないので、案外すべて実話かもなあと思ったりします。


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