LOVEのひろいばなし Vol.45「ちょっと真面目なだけ」

おかしい。銀杏なのに。

特有のあの匂いがなくて、初めて食べる木の実みたいな味がする。ここはどこなのだ。北欧の山奥、森林地帯の隠れ家で、熊さんみたいな猟師が営むジビエレストラン?私は未知の森の珍味をいただいているのか?

いや、頼んだのは、銀杏です。

そして、私は、思いっきり神保町の焼き鳥屋にいます。

日付は3月27日、日曜日。

前日のワンマンライブで疲れた体をいつもなら休ませるところです。ここのところのアレンジ&リハーサルみっちり、からのライブ本番。もう1ヶ月以上、毎晩のウクライナについてのアップデートも続いており、脳も疲れていたところ。

昨夜は染み渡るような拍手をいただき、心が整うライブでした。本当に気持ちがよかった。全力の、ベースとのデュオライブ。ライブ自体も年末以来。真船さんのベース、全部かっこよすぎて、しびれました。会場でお客さんにお会いできたのも久々で、熱い眼差し、熱量のある拍手に、質の高いエナジーをいただきました。

いつもなら私が皆様を「がんばって」と送り出すのですが、どうも今回はお客さん達から「15周年、ここからしっかりがんばって」と送り出していただいたような感覚があります。

ただ、ね。私はここから、どこへ行けばいいのでしょう。

というか、私たちはどこへ行けばいいのでしょう。

自分のキャリアのみならず、漠然とした問いが大きく残る、世界のターニングポイントのような春でもあります。

「今年の桜はゆっくり見ておきたいな」

昼ごろに目を覚ましたらいい天気でした。午後は曇るみたい。いつもなら5度寝ぐらいするところですが、この日は外に出たくなりました。とにかく美しいものが見たい。この先の道標になるものが欲しい。

桜は満開の週末です。とりあえず着替え、友人を誘い、せっかくならばと名所の千鳥ヶ淵をブラブラすることにしました。

ふわああああ。

風が吹きました。

九段下の駅を降りて、視界が開けた瞬間。

あたり一帯、薄紅色の桜色が咲き誇っていました。空気が違う。肩の力が抜けました。

武道館をバックに、見渡す限りの桜色と青空。

お堀ぞいに歩き、満開の千鳥ヶ淵をゆったり散歩しました。ここちよい疲れに、歩きながら入れる桜風呂に入っているかのような。

ベンチでみたらし団子を頂いて、そのまま半蔵門駅へ。いつもは東京エフエムの生放送、仕事のために使う駅です。この日、肩に桜の花びらをのせながらくだるエスカレーターは、いつもと全然違う。

さあ、とにかく体が疲れているので、夕飯は、変なものを食べたくない。絶対に「良いもの」を食べたいぞ。さて、何がいいかしら……。

まずBGMがうるさくないのがいい。

あと他人の会話聞きたくないから、他と距離が近すぎないとこ。

小綺麗にはしているけれど、「どうだ、うち、いい店でしょ」ってドヤってこない店。

値段が高すぎて気を使うところは嫌だ。

で、ケミカルな味をださない自然派で。

こざっぱり、しっぽりしてて、落ち着いて、美味しいものが食べられるところ。

……で、何食べたいねん。おまえさんは、わがままか。

って書くとこうなりますけどね、ありません?こういう日。とにかくほっとしたいときの、「良いもの」基準。とにかくこの基準で食べたいのォ!!みたいな。

最初は日比谷か東京駅に行こう、と話していたのですが、路線図を見て、神保町にしよっか、と結論が出ました。

古本屋が多くて、あんまりミニスカートのギャルとかいなくて。渋くていい店が多い街、神保町。とはいえ、私は行きつけとか特にないです。普通に検索しました。

すごいですよ、神保町。焼き鳥屋の海。その中から、こざっぱり見える初見のお店のカウンター席に我々落ち着きました。

店が、暗くない。白木のカウンターが美しい。オーバーオール×前掛けをつけた、熊さんみたいな店主がめちゃめちゃ寡黙に焼いています。

話は冒頭に戻りますが。

最初に頼んだ、銀杏が。

銀杏じゃないんです。

この木の実は一体……。

ナウシカの差し出したチコの実を初めて食べたアスベルの気持ちもこんな感じだったのか。いや、クコの実の噛み心地は微妙でしたが、この銀杏はヤヴァい、文句なしに旨い。それこそ長靴いっぱい食べられる(ナウシカ見てね)。

続いて、鶏のムネ肉。ふっかふっか!!くるみ味噌がついてきました。くるみ味噌って。

は?なんなの?ヤヴァ旨すぎて、こちら文字通り椅子にのけぞっていますが、大将、意に介さず。いやいやいや、これ本当に鶏肉ですか?

続いて、レバー。

いやいやいやいや。これはレバーじゃないでしょ。レバーなのはわかってるけど、違うでしょ。

続いて、巨大しいたけ。

いやいやいやいや!!!どうやって焼いたの!!これもふっかふっか!!!

だめだ。この大将の精神状態を確認しないと私は帰れない。ちょっとあんた、このメニュー、正気ですか。どうやったらこんな。

「すみません」

応えてくれません。

目だけチラッとこっちを見ます。

「すみません、あの銀杏のお代わりと…」

視線だけでフロアスタッフに注文をとるように指示を飛ばす大将。それがまた熊の息遣いみたいで。すごい。

「ていうかこの銀杏、美味しすぎるんですけど本当に銀杏ですか?」

大将、ちょっと微笑んで応えてくれました。

「銀杏ですよ」

「なんでこんな味がするんですか、普通じゃないですよね」

少し照れ臭そうに、でも誇り高そうな、熊大将。

「ちょっと真面目にやってるだけですよ」

ちょっと。真面目に。やってるだけ。

かっこよすぎるぞ。そして答えになっていないぞ。

「いや、さっきのムネ肉もレバーも、おかしいですって。美味しすぎますって。絶対何か秘密がありますでしょう」

大将、かぶせてきやがりました。

「ですから、ちょっと真面目にやってるだけですよ」

ぐぬぬ、秘密は秘密のままにする主義なのね。となると余計知りたい。しっかし、旨い!ひと口ずつのけぞりながら、しめのごはんへ向かいます。

メニューを見たら、「山わさび飯」がありました。なんですかこれ。

普段私たちが食べているのは、沢わさびなんだそうです。で、一部北海道に自生する山わさびってのがあって、少量でもわさび度が何倍も。だいぶ辛いわさびなんだそうです。

「でもね、まあ、いろいろあってね。縄張り争いじゃないけど。あんまり出回らないんですよ。うちはまあ、ちょっと真面目にやっているもんですから少しだけ手に入るんです」

はい、それで。お願いします。

真っ白に削られたわさびは本当に少量ですが、疲れた体をリフレッシュしてくれるキリーっとした美しいお味!ちょっとお醤油を垂らして……ああ、旨い。ほんの1杯の少ないご飯なのに満足感がすごい。

「大将、おしえてください。ちょっと真面目に、って、どういう。私だってだいぶ真面目に生きてますよ。でもこんなふうに鶏焼けないし、この銀杏も作れやしませんから。真面目ってなんですか」

あまりにふがふが美味しそうに食べつつ食い下がる私に観念してくださったのか、大将、教えてくれました。

「じゃあ、まずさっきの銀杏」

きたぜ!銀杏の秘密!

「生の状態で、手で皮をむくんです。炒ったり茹でたりしたものよりもよっぽどむきづらいから、時間がかかります。でもちょっと真面目にやるだけで、そのまま串に刺して、美味しく焼ける生銀杏になるんです」

ほほおおおおお。

じゃあ、あのムネ肉とレバーは?くるみ味噌は?

「お肉はね、簡単ですよ」

なんですか。焦らすわね。響き渡る、炭火のじゅうじゅう音。

「冷凍しない。それだけです。ほとんどのお肉が私たちのもとに届くまでにだいたい一回冷凍されます。鮮度を保つためにね。それをしない。その日に出す分だけ仕入れる。欲張らなければ、できるんです」

ほほおおおおおおう。

カウンター、並びのお客さんたちも一同惚れ惚れとしたため息。

「それだけ?」

「それだけです。ちょっと真面目にやるだけです」

「くるみ味噌は?」

「うちは醤油以外、調味料は全部自分とこで仕込んでまして。食品添加物はいっさいお客さんの口に入りませんよ。それもね、手がかかるんですけどね」

「山わさびの仕入れは?」

「生産者さんをちゃんと応援する、それだけ。そういうのが信頼になるんです。言ったでしょう、ちょっと真面目にやるだけですよ」

日曜日の神保町、夜7時。

私は感動に震えておりました。

うううう、ここに私が理想とする世界がある……!熊の大将や、あたしゃあんたに村の長をやってほしい。ふるふるふる。

そして、感動に震えながらお願いしたお会計。

「……!!」

友人と2人で目くばせしちゃいました。ものすごく良心的だったので。えーっと、ここはパラレルワールドですか。質と物価のバランスがゴールデンなユートピアなんですか。

「こちら、広くお知らせしたほうがいいですか、それとも内緒にしておきますか」

ふふふと顔をほころばせて熊の大将、ひとこと。

「小さな店ですから、内緒でお願いします」

だああああ!

粋すぎる。

この、仕入れと仕込みとおもてなしのサステイナブルなサイクルたるや。この美しき自然のハーモニーを我々は絶対に崩してはいけないのです。靴についている種子やらを落としてから入山する小笠原諸島よろしく、我々都会人の身にこびりついている欲望やら見栄やら。しっかりとコロコロで落としてからじゃないと入店してはいけない、熊の住処がここにあったのです……。

神保町の駅に戻ってから、焼き鳥屋に向かって我々ぺこりと一礼。大袈裟なようですが、この先人生どこへ向かえばいいのか、道標のヒントをいただいたかのような気がするほど。

熊の大将がいう「ちょっと真面目なだけ」。それが自分バージョンだとどういうことになるのだろう、それを考えながら帰路につきました。

ああ、あの人に村長になって欲しい。また会いたい。ていうか今夜にでもまた銀杏食べに行きたい。

行ってみたくなった方は片っ端から神保町の焼き鳥で銀杏頼んでください。絶対、違いがわかると思います。苦くないから。

 

とりあえず友人と焼き鳥の感想が止まらない帰り道でした。

愛のないものってどんだけ食べてもすぐお腹空く上にもたれたりするけど、今日のご飯、とても綺麗な何かで満ち満ちていたよね、と。だから全然、量食べてないよね、なのに満たされたよね。ほんとだー!などなど、あーだこーだ。

私たちは実は普段のご飯、ご飯を食べてるんじゃないのかもしれません。ご飯に宿る「きらきら」「つるつる」「ぴかぴか」みたいな精神粒々(今度説明しますね)を一定量食べようとして、食事を摂取しているのだとしたら?

ジャンクなものほど足りないからいっぱい食べちゃう。胃ももたれちゃう。そんな説も成り立ちそうですよね。

そういえばヨガの仙人みたいな人って、ごはん食べないんでしたっけ。風とか食べて生きてるんでしたっけ。水は飲むけど、みたいな(めっちゃイメージトーク)。

私そういうのあんまり信じないというか「特殊体質×修行の成果じゃん。ていうかいやいや、ガリガリじゃん?」て思う派だったんですけども。初めてちょっと「あるかもな」って思いました。

あの大将が作るご飯を日々食べていたら、少しの分量でもガリガリにもならず健康でいられそうな気がする。

はっ!

そういえば私の整体の仙人先生は筋骨隆々ですがご飯あまり食べてない!何食べてんだろう?冷凍しない肉?生で皮をむいた銀杏?こんど聞いてみます。


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