LOVEのひろいばなし Vol.35「オシャレは我慢です」

オシャレは我慢だそうです。そうおっしゃったの、ピーコさんでしたよね。
高いヒールも、寒い日の肌見せも。オシャレのためなら多少の我慢は当たり前よと。ピーコさん、おっしゃる通りです。国が変わって標高5000mのオシャレにも、もちろん我慢がありましたよ。
チベットに着いて数日間のラサ市内観光中、街のど真ん中にあるマーケットエリアに行ったのですが、とにかく寒かった!おかしいな、ダウンジャケットとSORELのアイスブーツでこっちは完全防備なんですけど。さみいよう。けど色々みたいよう。
乾燥ヤク肉のヤクジャーキーが積まれていたり、生活雑貨が積まれていたり、やたら小さな金ピカブッダ の像が大量に売られていたり。また「タンカ」といって、伝統絵画も盛んに売られています。アートギャラリーも多数。現地ではブッダ の像と共に曼荼羅や他たくさんの神々の絵を家に飾る習慣があります。その前で瞑想をしたり、拝んだりするそうです。ギャラリーの中では地元の青年たちがまるで写経のように、黙々とカラフルな曼荼羅を描いています。こちらもまじまじと見入ってしまいます。にこっと帰ってくる笑顔がシャイっぽくて可愛い。けどさみいよう。
できれば絶対アクセサリーは買って帰りたい。ターコイズや金銀などの鉱石がふんだんにとれるチベットです。最初の数日間で巡った市内の寺院のひとつ、ポタラ宮に保管されていた重要人物たちの歴史的な霊廟は、これでもかというくらい巨大なターコイズや赤い鉱石、金銀でそれは豪華に装飾されていました。
ええ、自分、平民ですんで、小さくてもいいんで。記念に何か欲しいだけなんで。
と楽しみにやってきたものの、いやあ、ゆっくり見てられない。とにかく露店は寒くて無理。どっか入ろう。おい、肌を日焼けさせた笑顔の素敵なチベタン達よ、あなた方の寒さセンサーはどうなってるんだ。
現地の民族衣装屋さんに入ることにしました。明日はいよいよ標高3000mの市内を出て、標高5000mの湖へのドライブの日。せっかくのロケーションにて着れる何かを見つけられたら、なおラッキーです。
チベットの伝統衣装は、婚礼などの儀式では華やかなものになります。日本の着物と同じですね。でもそれ以上に、普段着としてもとても一般的に着られています。普段着のそれはそれで渋くてとってもかっこいい。ハットと合わせている男性なんて、見惚れてしまいます。めちゃめちゃご高齢のおじいさんも、目で追っちゃう。
仕立て屋さんに入ってみると、天井まで壁一面にいろんな生地が並んでいました。
「任せなさい、合わせてあげるから」
声小さめ&テンション低めに見せかけてゴリッゴリにいろんなものを勧めてくるおばちゃん店主登場です。私、関西人なんで負けません。チベットのおばちゃん魂vs関西のおばちゃん魂。どれだけド派手なオレンジの帯を勧められても、「もっとええ感じのやつあるやろ、妥協せえへんで」と。
男性も女性も、まずはシャツを選びます。チャイナドレスと同じような首元の、ただしもっとゆるめでオーバーサイズで着るタイプ。縁取りの美しいシャツが無限にあります。全体が柄になってる素材もあれば、首元の見えるところだけに繊細な刺繍が入れてあるおしゃれなものも。体に沿うようなカットのシャツはひとつもなく、だぶーっと着ます。袖口もだぶーっと。で、とにかく袖が長い。
私は白い刺繍が美しい、白シャツを選びました。
さあ、次は上着です。
同じく袖が長くてだぶんだぶんです。これ、学校で着ていたらカンニングし放題どころか、ここにごっそり弁当いれて腕から食べて早弁できるんじゃないの。そもそも遊牧民も多い国です。マイナス〇〇度の冬の突風にも耐えうるよう、だぶだぶの袖口は手袋がわりにもなっているんだとか。内側はボアでもこもこです。あったかい!
店主のチベットおばちゃん、次から次へと持ってきます。かと思ったら、急にオススメの勢いが衰えました。諦めた?なんで?重いから?
そうなんです。上着は、毛布のような分厚い素材でできたオーバーサイズな前合わせコート。丈は足首まですっぽり包む長さで、けっこう重い!高いところにかかっているから、長い棒でひっかけて下ろすのが面倒らしい。チベット人、基本チルなので絶対に無理なんてしません。
いくつか試着したのち私は深いボルドーの上着を選び、刺繍がかっこいい赤の帯を合わせました。ウェストあたりで縛ります。ただ、いかんせん布団まいて縛るのと同じですから、もうこの時点で、腕が回らない。全然1人で着れません。
店主のおばちゃん、現地に住んでいる同級生のMiss.Tibet、その彼氏、一緒に旅行にきているおちよちゃん。4人がかりで、うんしょうんしょと着せてくれます。現地民はこれ1人で着れるわけ?さっきまであんなに寒かったのに、もう汗だく。
で、何がかっこいいって、片方の肩を落として着るのが普通なんだそうで。遠山の金さんです。この紋所が目に入らぬか。上半身は内側のシャツと着る布団の色合わせで、いくらでもパターンを楽しめます。さらにみなさん首元と腰回りにもじゃらじゃらのアクセサリーをつけている人も多く、相当おしゃれ。既婚者の女性はカラフルなエプロンもここに追加するらしい。
さあ、できあがった初めてのチベット衣装1セット、お買い上げ、2万円くらいしました。結構するじゃん。ということで大事にするぞと持ち帰り、いざ明日のドライブはもうこの現地スタイルで行くことができました。おかげさまで大変フォトジェニック、標高5000mの湖や草原で相方のおちよちゃんが撮ってくれたお写真はどれもどこぞのアー写のようでした。
美しかった。……そして、とにかく重かった。
そう、この着る布団。もうね。一度着たら脱ぐ気がしないんですよ。縛りなおすのが一苦労なので。だからですかね、体温調節したいなら半分肩だしとけ、っていう遠山の金さんシステムにも納得。ぶらんと腰まわりにまとわりついている片方の袖がスカートみたいになってて。うん、かっこいいのはかっこいいんですが。重大な問題がひとつ。
トイレ。
トイレが。
これ、どうすんだ、と。
洋式じゃない限り、無理やないですかと。和式トイレのしゃがむスタイルだったら、絶対もう服が床についてまうんと違いますかと。
標高5000mのチベットファッションをピーコさんがチェックしてくれるなら、寒さを我慢するか重さを我慢するか、だと思ったんですけど。どうしてくれよう、真の我慢はトイレでした。しかも我慢したのは、してくれたのは、私じゃなくて、旅行を共にしている、おちよちゃんなんですが。
湖へ向かう途中の国道横にある公衆トイレに寄った時のことです。
このトイレ、作りが実に斬新。果てしない崖っぷちギリギリにコンクリの箱を乗せた作り。個室なんてありません。かろうじて仕切りの壁があるだけ。
で、いわゆるボットン便所ていうか、穴が床にあいてて、その下が、ぞわぞわするくらいの崖になってます。直で、崖。小石が落ちてもパラパラパラパラ…、下方は無限の彼方です。 我々2人、思わず笑ったものの、これ、安全性は大丈夫なのかと。そして、このあと1日分の衛生上、ちょっと裾を踏んだり転んだりしたら大変なことになるのは明白です。徐々に状況の深刻さを理解しまして、低めの声で「嘘でしょ」「ヤバ」と立ち尽くした我々。
まず、吹き荒ぶマイナス20度の風の轟音の中、脳裏にてこの状況を正当化します。
「そうだよね、チベットのう○ち君たちは転がり落ちて風になる宿命なんだよね…さすがだわ、すべてが自然と調和しているわ!葬儀は体を自然に返す鳥葬だし、トイレは崖で風に吹かれるし…なにも間違ってない。何も間違ってない!!!!」
ということで我々の解決策はこうでした。私がしゃがみこみ。おちよちゃんが目を見れる距離で向かい合って座りながら着る布団をしっかりと押さえてくれ。
無言で。
究極の友情を確かめ合う30代女子。
フォトジェニックの代償に、この構図。
アホか、と。
私のオシャレのために我慢したのは、してくれたのは、おちよちゃんです。何をやらされているんだ、と、きっと脳内に浮かびつづける疑問をかき消してご協力くださったのでしょう。
以降、シャツだけ日本で着ております。帯は小物として大活躍、去年末のライブの衣装にもなりました。着る布団は、もうトラウマで着れない。ていうか日本そんなに寒くない。だけどありがとう、あの時の店主。ありがとう、着せてくれたみんな。何より、ありがとう、おちよちゃん。
チベットの方々、もしくはご存知の方。 いらっしゃいましたら、どうかこっそり教えてください。
あなた方はどうやって。
ねえ、どうやって。

着る布団、前回引越しのタイミングでさようならしました。ごめんなさい、もう本当に出番がなくて。そして文字通り布団と同じくらい場所をとっていたので。ごめんなさいぃぃぃぃ……!
しかし引き続きチベットのファッションには目がない私です。でも日本ではまず手に入りませんね。ときどき現地の友達であるMiss. Tibetが送ってくれるアクセサリーを大事に使っています。
チベット内部のエリアでもそれぞれ個性があるそうですが、場所によっては巨大なヘッドセットやヘアアクセサリーもつけるそうです。帰国してからいろいろ画像検索していたら、欲しいのありすぎ!悔しくなりました。かっこ良すぎる。いつ使うかわからないけど、もっと攻めてじゃんじゃんゲットしてこればよかった。
で、2017年のことですが、チベットファッションを検索して楽しんでいたら「China Fashion Weekに始めてチベット出身のデザイナーが参加、ランウェイを魅了した」という記事を発見。
見てみたらモダンに解釈されたチベットの伝統衣装が、色彩豊かにセンスよく並んでいて、もうめちゃくちゃかっこいいではないですか!!と鼻息荒くなったわたしです。今の時代、どの国のなんであれ、だいたいインターネットから手に入るはずだと思ったものの、インスタグラムのアカウントもTwitterのアカウントも、ブランドの私が検索できるウェブサイトもない。情報がない。
チベットの情報は本当に外に出ないですね。情報統制、この野郎、です。
現地の友達にたのんで調べてもらうことにしました。AJ NAMOさんというデザイナー、ラサ市内には店舗があるそうです。よーし。直接、顧客になってやる!
目下の楽しみは、おそらく到着に1ヶ月くらいかかる衣装をどうにかゲットすることです。
チベットに関してはもう本当にどこで何を言えばいいのか、いけないのか、私も現地の方々に迷惑をかけたくないので気をつけています。ですが、アートがあるなら、それはチベット人にとっては大事なメッセージに違いないのです。
そういう服が着たいです。今年どこかでお目見えするかもしれません。 ちょっとだけなら画像がでてくるので、興味があるかたはAJ NAMO検索してみてくださいね。かっこいいですよ。