LOVEのひろいばなし Vol.29「こホゥりさん」

家でスイーツを食べたい、とは普段そんなに思わないのですが、ホットチョコレートだけは、別格です。流石に毎日は飲みません。でも、手のひらのカップいっぱいの温かいご褒美として、時々、大事にいただきます。

特にこの時期、寒くなってくると、美味しいんですよね!チョコレートの香りで、12月らしさ、クリスマス気分も満たされます。夕飯後に一息ついて、ミルクパンにアーモンドミルクを温めて、固形チョコレートでもココアパウダーでも。溶かしながら作っているだけで甘い香りに包まれ、子どもの頃のクリスマスを思い出したりして。

サンタさんは、もう今日明日は大忙しのはず。彼、現場系ですもんね。寒い中での屋外作業、あなどれない作業だと思います。1番近い職種でいうと、ライブハウスでの楽器積み下ろし担当のローディーさん。楽屋裏の搬入口とほぼ同じなのでは。トナカイはヒヅメなのでほぼ役に立たない。

「トナカイ、おまえ入り口塞ぐなって何回いったら…もうバックでっていったじゃん。ええ!?エレベーターないのかよ、ここ!」

みたいなね。筋肉とカロリー、だいぶ使うと思います。

だからきっとサンタ界隈では喜ばれていると思うのですが、子どもたち側も意外とサンタさんにお礼を用意しておきたいという風習もありますね。「サンタさん、ありがとう。食べていってね」とメモと一緒にクッキーやチョコを置いておくなど。ただあれはむしろ「本当に来るか!なくなるか!?食べていくか!?」っていう、夜間の赤外線カメラにイリオモテヤマネコが映るかどうか的な心理のほうが強いと私は思っているんですけども。

とにかく子どもたちからの甘いもの差し入れのオンパレード、さすがに1丁目から4丁目を制覇したあたりで、さすがのサンタも「もうええわ」ってなるのでは。

そう思って、私が子どものころ用意したのは、ふんわりと優しくラップをかけた小皿です。夕飯の残りもの、「卵焼き2きれ」。味変としては喜ばれたかもしれないなあ…と遠い目をしながら。大人になった私は、そんなことを目を細めて思い出しながら自分のためにホットチョコレートを溶かすのです。

そんな12月。実は…。

今年はもう、サンタさんにお会いしちゃったんですよね、私。

「おラヴさん、またメルヘンなことを」とお思いになったでしょう。違うんですよ。サンタ、上階に住んでいたんですよ。

ツイッターなどではよく書いていました。夕方4時すぎ〜5時の間に、必ず掃除機をかける上階の住民。壁という壁にヘッドをゴンゴン豪快にぶつける住民。ホコリをひとつも逃さないためなのか、吸いが悪いのか。みなさんがご想像されるよりもずいぶんじっっっっっくりと時間をかけて掃除機をかける、住民。

引っ越した当初はプチノイローゼになりかけた私も今では慣れ、「お、今日もお元気で」と、生存確認をしています。少し時間が遅れた日などはむしろ心配したりして。

規則正しく決めた通りに生活しないと落ちつかない特性の人なんだろうなと想像&納得。生活音の時間帯から、もしかしたらご老人かもな、というのが私の予想だったのです。が。

12月に入ったある日の午後、デスク仕事をしておりましたら、ピンポーンとドアベルが。はい、と答えた玄関カメラには、ご老人というほどではない60代に見える白髪の女性の方が写っていました。声は高めです。

「あのホゥ、上の階のホゥ、こホゥ〜り、と申しますけれどもホゥ」

え、あの掃除機の主ってこと?やった、とうとうご対面だ!と急な訪問に胸躍る私。素性が知りたい。キャラが知りたい。少々お待ちくださいとお声がけして玄関に向かいました。

まずですね、ドアを開けたつもりなんですが、すぐにむこう側から半分グッと閉められました。そして隙間から覗きこまれるスタイルで会話が始まりました。いや、全然いいんですけども。

早口かと思えばゆっくり、抑揚が独特です。とにかく恐縮されてます。とてもまともな方。ひしひしと伝わってきます。

「とホゥつぜん、すみません、ぶしつけにごめんなハァさいねえ、あのホゥですね、お布団をホゥそうと思ったら、風がフゥいてきて落ちてしまハァいましてね、あのホゥ、おたくのベランダにあるハァずですので」

ああなるほど!わかりました、すぐとってきますからお待ちくださいね!とお伝えして、私は大急ぎでベランダへ。という私の背中にも玄関からずっと話しかけてくださいます。

「いつもホゥのことで慣れてますのホゥに、もぅホゥんとに一瞬のことホゥでしたから、風に手元ホゥをもっていかれちゃって、ごめんなさハァいねえ」

ベランダにひっかかっていた布団を無事確保し、玄関まで持っていきました。助かりました、と深々と頭を下げられ「ありがとホゥございます」からのすぐ「じゃあお暇しますね」とおっしゃいます。

あっという間にお別れの時がきてしまったとちょっと残念に思ったのですが、不思議なことにその後の「では失礼しますね」が、「ところでですね」みたいな使われ方になっていて。あれ?と思ったか思わないかぐらいで、3つくらいの話題が、ぽぽぽんと飛んできました。

「お留守だったらどホゥしよホゥかと思ったんですけれどホゥ」 「もっと遠ホゥくに飛んでいかなくて、ホゥんとによホゥかったですよホゥね」 「まあ素敵なインテリハァにされてて、いいお部屋で。カーテンのお色もホゥ、いいですねえ、甘い、そうですね、甘い…。うん甘い!!あまハァいお部屋ですね!!!」

今までうちに遊びに来た友人に「甘い部屋」と言われたことがなかったので、ちょっと驚きながらも「あ、そうですか?どうもあり…」といおうとした次の瞬間。これ、ほぼ「あまハァいお部屋ですね!!!」の最後のキメと同時だったので、私も何が起こったか、一瞬わからなかったのですが。

…ぎゅっと、私の手に、箱が置かれたのです。

彼女の目は私の目を見つめたまま。私も彼女を見つめたまま。

両手でしっかりと、私の手に箱が乗せられました。

流れる沈黙。

…何。

ふと見ると、それは、赤いガーナのチョコレートの箱でした。

え…!と思って私が顔を上げたが先か、彼女が手を離したのが先か。

「じゃハァ!」

ドアの半分の隙間から彼女はふっと消えました。慌てた私、とっさに「お気遣いすみません!ありがとうございます!」と、その声はきっと廊下に響いたとは思うのですが。

…パタン。玄関ドアは閉まり、私はいつも通りの自宅にいるのに、急に夢の中に置き去りにされたような気がしました。

…今、何が起こった?

で、あの人ずっとホゥホゥ言ってなかった?

名前も「こもり」か「こホゥり」か、ギリギリ最後までわからなくなかった?

慣れているのに、風に手元持っていかれたって?

最初にドアを半分閉じたのも、お姿すべては私に見られたくなかった?

…サンタは上から来る、空から来るとは聞いてはいましたけれども。12月の奇跡が、まさかの上階から、やって参りました。結論として「あの人は、サンタだった」と思うことにした私です。

いま、このホットチョコレート、ミルクに溶かしているのは、もちろんぎゅっと持たせてくれたあの赤いガーナチョコレートです。とってもおいしい。あまハァい、いい香り。幸せの味です。

今日も上階のサンタは、ガンッガンに掃除機をかけています。

皆様、メリークリスマス。

 

「自分のミスでお布団を落としたのに、突然お邪魔してお願いだけするのも忍びない、何かお礼の品を」と思ってくださったんでしょうか。なんとなくですが、家にあったもの、というより、わざわざ買いに行ってくれたものなんじゃないかと。ガーナチョコのきれいなフィルムを見てたらそんな気がしました。

期待通り、少しキャラが偏ってらっしゃいました、でもお優しい方なのは間違い無いです。会えてよかった。

引越しのご挨拶、上階は行かなかったんですよね。それもいっておこうと思って、お越しいただいたタイミングで恐縮ですが、とこの機会に詫びましたら、ガン無視。見事にスルーされました。ガーナを渡すタイミングのほうが大事で、それどころじゃなかったのでしょう。いいんです、こホゥりさんはそれでいいんです。聞いた私が野暮でした。

「甘い」をキーワードに渡す、これだ!と思ったんでしょうか。自然な会話の流れ!みたいな。思いっきり不自然でしたけど。でもそこには善意しかなかったです。大好物です。こういうの。

万が一、地震や災害があったときには、私はまず隣に暮らしているトラックメーカーちゃんと、上階のこホゥりさんの確認をしようと思います。

12月の小さな幸運が、みなさまにも舞い降りますように。見逃さないでいてくださいね、どんな形でやってくるかはわかりませんから!よいクリスマスを!


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