LOVEのひろいばなし Vol.27「ちょっとでいいんで」

6時間の映画を、
「ちょっとでいいんで、観てもらって、ひとこと感想だけもらえたら」
という仕事の正体は一体なんなのでしょう。やり方がわからない…6時間観るしか、他に正解がないのでは。
このお話、お仕事先の方が読んでいたら、ん?うちのはなしやん!ってわかっちゃうとは思うんですが、もう笑って読んでほしいのです。いや、まじで。みんなどうやってるんだ?「ちょっとでいいんで、感想だけ一言ください」系のお仕事。ちょっとでいいんで、って。
具体的にどこを。
ちょっと。
観れば。
よいのだと。
で、一言の感想が「すばらしい!」とか「感動した!」じゃね、芸がないですもんね。じゃあそれっぽいことを言ってみましょう、ということで。
音楽でいうとですよ。イントロを聞いて、ふーんと思い。「いやあアカペラっていいですよね生々しくて」といったとして。そのあとサビ頭で「エンダーーーーーーー!!!!」でドラムバーン!って来られちゃって。これ、ホイットニーが生きてたら、楽屋のカドに追い詰められて私完全にシメられてますよね。さらに、私を雇ってくれた方々のお立場もなくなるというか、多方面、信頼を失いかねないというか。どんな作品にも、新展開が後半に来る可能性は、ありますからね。
また、逆に展開がないとしても、それはそれで確認しておくことが大事だったりもします。
時に、歌い出しの歌詞「♪僕らはどこへゆくのぉ〜」に期待して、青春ロマンティシズムで「♪君のためにィ〜」と煙に巻かれながら最終的に答えがない曲だったとして。最後までたどり着いてエンディングのおセンチな余韻のなかで、「…結局どこにも行かへんのかい!誰のためなんじゃい!」とちゃぶ台をひっくり返したくなったとしても、それはそれとして作品としての正解にやっとたどり着けたっていうね。確認ですから。どんでん返しでいきなりプロポーズされて終わる曲、ではないことを確かめられたんですからそれでよし。(最近のPOPSの性質として、曲のエンディング近辺で仕掛け、ってまずないですけども)
ですので、「ちょっとでいいんで」はもう、何年もかけて築きあげてきた私の「感想職人」としての職に対するほぼ罠、ふんわりトラップなのです。
ましてやビートルズともなれば6時間だろうが、観たい。観たいのです。そうです、「Get Back」、大作ドキュメンタリーです!
ちなみにビートルズでも、新人アーティストのミニアルバムでも。お会いしたりご紹介したりする前には、最後まで観て聴いて…ってこれ、私にとっては当たり前のことです。大阪でゲスト番組をやっていたときは、毎週、行きの新幹線で2時間半みっちり予習するのがとっても楽しかった。
そう、予習って楽しいんです。最近だと、東京事変のベスト盤リリースにあたって、光栄なことにまたも椎名林檎先輩に生放送インタビューのご指名をいただきました。ああもう嬉しい!けど絶対失礼できない!!といただいたベストを聴いてみたら全曲遊び心たっぷりに曲のミックスがやりなおされていました。そしたら元と聴き比べたくなっちゃって、結局東京事変全部1枚目から各アルバムを聴きなおして。超!楽しかったです。新発見ばかりで。
私も作り手として「作品はそんなに甘いものじゃない」ことがよくわかっているつもりです。同業者に敬意を表すためにも「自分の耳を過信してはいかん」と常々思います。これは、アーティストとしてラジオDJをやる、私なりのプライドでもあるのです。
これまで、自分がゲストにお邪魔させていただいた際、全国のDJさんには本当によくしていただきました。FM COCOLOの加藤美樹さんは、ベストだろうがオリジナルアルバムだろうが、びっしりとメモをとってくれていました。さらに音楽のみならず、震災以降の福島相馬での私の活動についても、深い理解を寄せてくださいました。赤坂泰彦さんにお会いした時もそう。作品の音作りに造詣が深く、音楽に真摯でいらっしゃる姿勢、本当にすごいなと感銘を受けました。住吉美紀さんは、心を震わせながら本音の言葉で話してくださる方です。
この20年で一度だけ、「あ、この人、曲をたぶん知らないなあ」と思ったラジオDJさんに会ったことがあります。10代のバンドデビューした頃のことでした。今日着ている服のこととか、デビューしてどう、とか遠回りの雑談で終わって。私の方からちょっと曲に込めた想いなんかのお話をさせていただいたんですが、あんまり噛み合わなくて逆に申し訳なくなって終わったゲスト生出演でした。
ラジオDJさんだって、私とは比べ物にならないくらいお忙しい方やご活躍の方々もいらっしゃいます。アルバム曲のマニアックなRECポイントまでお話できるようなゲストインタビューなんてなかなかないものかもしれません。でもやっぱり作品を作った人間からしたら人生をかけて作っていますから、感想をいただける機会があるなら、素朴でも真心でいってもらえることが何より嬉しいのです。
もし「ちょっとだけでもいいんで、聞いてもらえたら」って作品を作った当人がいっていたなら、それは全力です。本当にちょっとでいいと思っている作り手なんて絶対いません。
というわけで、「ちょっとでいいんで」は私に通用しないのであります。さあ、今週は6時間のビートルズを、今からあと1日半のうちに、解決していない機材の大量の接続ケーブルを横目に、観るのです。楽しみ。けど時間なさすぎ。けどやっぱり楽しみ。

「ちょっとでいいんで」トラップ、実は色々世の中にあると思います。日本語ってほんとマジック。
「ちょっとでいいんで、立て替えておいてもらって、あとでいってもらえれば」 気遣うなら、あなたこそ覚えておいて頂戴説。
「ちょっとでいいんで、アイデア出してもらって、ブッキングだけしといてもらえれば」 気遣うなら、手柄とお礼を頂戴説。
「ちょっとでいいんで、一緒にお茶してもらって、ツボだけ買ってもらえれば」 いや、これはもはや詐欺。
「ちょっとでいいんで、ボリューム抑えてもらえますか」とかもすでに「まあまあうるさい」ってことなんですよね?
「ちょっとでいいんで、スカート上げてみようかあ」とかも完全に変態度がちょっとじゃないっぽいですよね。
逆に、本当にちょっとでいいものってなんでしょう?
「ちょっとでいいんで、いやいやもうそれで十分です!」 下戸にとっての日本酒とか?
「ちょっとでいい」は本来は「ちょうどいい」であるべきなんではないかと、今ふと思いました。そういえば、「ちょうどいい」で考えるなら、完璧な日本語の例文シリーズがあるじゃないですか!ジャパン!
八代亜紀さんの、舟唄。完璧じゃん。
1番:
「お酒はぬるめの燗がいい
魚はあぶったイカがいい
女は無口な人がいい
灯はぼんやり灯りゃいい」
2番:
「店には飾りがないがいい
窓から港が見えりゃいい
流行りのうたなどなくていい
時々霧笛が鳴ればいい」
余剰がなくていいですね。贅沢はいわない。けどちょうどいい。
私的には2番がお気に入りです。店には飾りがないがいい、ってあーた、でも窓から港って。くううう。それよ、それ。むしろ情景が限られちゃって、ピンポイント贅沢。
では、本日のなんらかの記念に、今の私の気持ち、舟歌風に記しておきましょう。
「映画は2時間ほどでいい…
アルバム15曲なくていい…
要らない気遣いなくていい…
早めの指示だけくれりゃいい…」
です。 PS …6時間、観ましたとも。THE BEATLESの「Get Back」。超おもしろかったです、見事な記録!!ただ、一個だけいいですか。6時間どうにかねじこみまして現在4AMなんですが、映像、まだ終わらないんですけども…?
作品自体、ほぼ8時間のものでした。どんがらがっしゃん、笑。