LOVEのひろいばなし #159「“Huh?” = “はぁ?”ではないっていう話」

お子がものすごく予測不可能な動きを見せております。たぶん、なんらかの感染病をまたもらってきているのでしょう。戦々恐々。たのむ、私にはうつらないモノであってくれ……今週は予備の予備の時間まで(そう、私は毎週予備時間を自分に持たすようにしている)、完全に仕事の時間が作れなかった。くそう。

赤子の人生、上げ膳据え膳でうらやまとも思ってましたが、いやはや楽じゃないですねえ。きっと今夜もかわいそうに何かの不具合に悩まされながら夜中に何度も目を覚ますことでしょう(そしてそれはちょうど私が寝入った頃)。

どのみち今しばらく眠れないのであれば急ぐこともあるまい、と今ねぎしゃぶ鍋を時間をかけて食べたところです。アホほど美味しかったです。私の胃袋だけはとにかく元気いっぱいです。

さあ!

5時起きの私が21時に原稿を書くテンションはいかがなものか。行ってみましょう!前置き、相変わらず、長いね。

さて、先日半蔵門線にて、電車の天井に頭がつくんじゃないかと思うくらい背が高いスポーツ選手、ガタイのいい黒人男性をみました。着ていたものも完全アスリート風だったし、あの方は何らかの選手に違いないと一人で興奮しました。バスケじゃないかしらん。めっっっっっっっっっさ、かっこよかった。

読者のみなさまはどうかわかりませんが、私は日本で黒人の方を見ると嬉しくて妙にそわそわします。「大丈夫か、これ、逆差別になってないか」と心配されそうな癖かもしれません。女性、男性問わず。わわ!と目で追ってしまう。

アメリカやヨーロッパを旅をしている時に黒人の方やミックスの人たちがいくらいたってなんとも思わないのに、日本で見た時だけそう思いがち。旅行者ではなく日本に暮らしているっぽい人だとなおさらです。

たぶんですが、日本、韓国、中国あたりのアジア人はあんまり外見に変化がないし、日本てそもそもが他の多民族国家と比べるとどうしても単一的な国だし。とはいえ少なくとも東京における白人はもはやもの珍しいものではなくなっていて、半分アジアの香りがするミックスの人たちはむしろ増えているので、昔よりずいぶんと見かける機会が増えて自然になってきた気配。

そんな中、洋服や髪型、話し方や文化も含めて、日本と遠ければ遠いほど、似ていなければ似ていない人に出会うほど、馴染みがなくて「素敵!」とワクワクしてしまうのかもしれないです。

近所でよくすれ違う、アフリカ系の女性がいらっしゃいます。歳は30代っぽい。私よりも少しお若いと思う。背が小さくて、大胆なボンキュボン体型。学生ではないでしょう、きっと何かの会社員か、もしかしたら外交官さんかもしれないと思う雰囲気。黄色や赤や黒の鮮やかなアフリカンプリント布でできたタイトスカートとジャケットのスーツをいつも着ていて、同じ柄の布でアップへアを巻いているのです。日本人がまずやらないファッション。

日本的に言えば、プラスサイズなのかも。ただしウエストのくびれも足首のくびれもすごくって、ヒールでこつこつ歩くする姿がめちゃくちゃかっこいい。朝の保育園送りのあとにすれ違うことが多くて、ときどき笑顔を交わす程度なのですが、すれ違ったあとに振り返りたくなるほど素敵。

仕事は何を?日本にはどのくらい?ご家族はいますか?地元はどこですか?お国の話を聞かせてくれませんか?お名前聞いてもいいですか?

「は?名古屋生まれ、東京育ちですけど?」などというパターンがあってもおかしくないのは承知の上ながら。服装がNYっぽくも大阪っぽくもない。多分彼女は外国生まれ外国育ちで、日本にいらしたんじゃないかと思っています。遠いとこからの転校生みたいなもん…そうだ、そわそわの理由がもう一つあります。

アメリカ時代、同じクラスに、一人だけ黒人の子がいました。私が住んでいたのは割と白人が多い地域だったので、通った小学校も9割がた白人とヒスパニックとアジア人でした。

あの子の名前、なんだっけ。忘れちゃったなあ。

でも、忘れはしない。あれは、メリーランド州ベセスダから、ペンシルバニア州フィラデルフィアまでのスクールトリップ。長距離遠足みたいなもん。ドナドナされるがままにバスで数時間かけて行った、なんらかの行事。

私は小学六年生の春からアメリカに住みました。ただし、向こうでは学年が6月には終わってしまう上、手続きのあれこれで入学が遅れたこともあり、実際のところ私は6年生を2ヶ月ほどしかやっておりません。

その2ヶ月間、英語はできないどころか、数学以外の授業中は日本語の本を読んで過ごしボイコットしていたため、ともだちもままならず。そんな中のスクールトリップですから、「ほほう、博物館にいくのだな」と中身にはかろうじて期待こそすれど、友達のいない道中なんざつまらないだけ。子どもの遠足は道中が楽しいものなのに。

なんとなく孤独な気持ちでバスに乗り込み、窓際を確保。二人席のお隣に座りにくる人はいません。前後から楽しそうなきゃあきゃあが聞こえてくるものの、どうせ何言ってるかわかんないし。

まあ気楽でいいや、とぼうーっと車窓を眺めておりました。あとどのくらい走るんだろうな……つまんな。

と、突然、前の席に座っていた同級生が後ろに身を乗り出してきました。名前を忘れてしまった、あの子です。

黒人にも色々な肌のグラデーションがあるけれど、彼女はブラウンよりももっと黒に近い、深い黒色の肌。急にふたつの白い目が、前の座席の背もたれの上にひょこっと現れたようでした。

「(……うおっ)」

にこっと彼女が笑うと、白い歯が光って見えました。すごいなあ、本当に黒い肌なんだ。初めて間近で見た彼女はとてもかっこよかった。編み込んである髪の毛のデザインをまじまじと見てしまいます。甘い香りがしたのを覚えています。

「ワッチャーネイム?」

なんというか、他の子達もみんなアメリカ英語でRの発音とかきついのだけれど、彼女の英語はまったく違う音に感じました。

うまく言えないけど、「はちみつ」が声を発することができたとしたらあんな感じかも。口当たりが良くて、濃くて、ゆったり流れるような。今思えば、その子の性格、キャラもあったのかもしれないですけど。

「ふきこ」

話しかけてくれたのが、嬉しくて、照れ臭くて。何を期待していいのかもわからないけど、とりあえずのファーストコンタクト。えへへ、とはにかみながらシンプルに答えた私でしたが、次の瞬間。はちみつがゆったりもったりと聞き返してきました。

「……ハンァ~???」

私の名前が、聞き取れなかったのでしょう。

え、「はんあ~?」って、なんでっしゃろ。聞き返すのはいいんですけれども。聞き方、いうもんがあるんちゃいますの。失礼なんちゃいますの。あなたが聞き取れないだけで、これ、大事な私の名前なんですけど。

子どもの私が瞬時にイラッときてしまうほど、「ハンァ~???」は、強烈なインパクトをもってして、孤独な私をもっと孤独に突き放しました。日本でだって「はあ?」なんて、面向かって言われたことないのに。しどい。

「(もうええわ……)」

その後もしばらく何かを聞かれていたけれど、質問がわかったりわかんなかったりして、適当に答えたり答えなかったりして。彼女は彼女で車酔いもするからでしょう、やがて「おもんな」とばかりに前を向いて座り直し、私にはかまわなくなりました。

さて、ずいぶん後になってから。たぶん小学校を卒業して彼女とは別の中学に進んでから、私はやっと知りました。英語では、「え?」「なんて?」と同じ意味で、ごくフランクな使い方で、“Huh?”と言う、ということを。

「はちみつ、私を小馬鹿にしてたんじゃないのか…!!」

そう、まったく彼女に悪気はありませんでした。転校生が後ろに座ってたから話しかけてくれただけ。向こうこそ、「なんつう無愛想な、手応えのない、ちっちぇえ女の子だな、つまんな!」と思ったに違いありません。

ぐあああ、今からでもあの日の態度を謝りたい。そしてお礼を言いたい。話しかけてくれて、名前を聞いてくれてありがとう、と言いたい。

っていうのが関係があるのかないのかわかりませんけど、必ずといっていいほど、日本で黒人の方々を見かけると、あの子とあのはちみつみたいな声を思い出し、そして「逆に今度は彼女や彼らが転校生みたいなものだし」と思ってしまう。

妙な癖ですね。ぜんぜん関係ないのにね。なんの罪滅ぼしなんでしょうね。

さて、先日、半蔵門線で見かけた例の黒人アスリート風の男性の話をしておりましたら友人が、

「なんかさ、”輩”みたいなひとたちっているじゃん。歌舞伎町の路上とかに。もうさ、黒人のでっかい健康な人に、片っ端から首根っこつまんでポイって遠くに投げてほしい」

と言っておりました。ボルトみたいなのにぶっ飛ばしてほしいってことだよね、圧倒的に体型も何も敵わない感じで、言い訳とか何もできなくなるパターンね、「参りました~!!」ってなる感じでやってほしいよね!と大いに笑いました。……余談でした。


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