LOVEのひろいばなし #156「ニコちゃんとフェアグラウンドアトラクション」

我が母校のカフェテリアは、今考えてみれば中学生高校生向けのカフェテリアとしてはそこそこ立派だった気がします。毎日定番のうどんメニューから日替わりの定食など、飽きることなく、お弁当派の友人とも席をごちゃまぜにして仲良く食べれたお昼の時間は、とても楽しかった記憶があります。
ヒラリーと会ったのは、そんなカフェテリアでした。のちに親友のひとりとなる、兵庫県三田市育ちのアメリカ人です。彼女は中学校まではセーラー服をきて地元の公立に通っていました。海外の大学進学を見据えて高校からインターナショナルスクールにやってきた転校生です。
私としては、「あ、新しい子がいるな」くらいには思っていたものの、別のクラスだったので特に気に留めていなかった中。
ある日のお昼時のことです。カフェテリアに来た私は、トレイを持って順番に並んでおりました。進行方向、右の方を向いてメニューを考えていたら、私のあとに続いた生徒に、乱暴にゴンとトレイをぶつけられました。なんやねん、と振り返りましたら。
骨太でガタイの良い、ていうか「ぶぅおん、きゅっ、ぶぅおん」ぐらいのダイナマイトバディの白人の女の子が、どでかい青い目でニヤリと笑いながら私を見下ろしてこう言いました。
「自分、バレーのマネージャーやってるやんな?あたし、ヒラリー。よろしく」
あ、うん……と返せたかどうか。ものすごいパンチが効いてました。あなた、高校生ですよね、というど迫力。
名前だけでもヒラリー・ニコールというゴリゴリのノンジャパニーズ、ドイツ系アメリカ人のヒラリー。別名ニコちゃん。
転校生といえば、少しオドオドしながら初めての挨拶をして、みんなの空気にだんだん馴染んで、という流れもあるあるですが。彼女は違いました。全オーラが「なんか文句ある?ニヤリ」と堂々としていたのです。もう一回いうけど、でかいし。
ヤンキーではありません。喧嘩を売ったり人にちょっかい出したりなんて絶対しない。ただ妙に落ち着きはらったボス感がありました。そして人と群れる気配が一切ない。妙にかっこいい子でした。
一方、クラスには必ずひとりくらい調子にのった男子がいますよね。我が学年には、虚言癖のある同級生男子がいました。のちに私はその子とバンドを組むことになるのですが、当時から「2メートルくらいのカニを食った」だの、「ビールを15杯は飲んだ」だの、超どうでもいい嘘を日常的につくキャラ。
で、その子を取り囲む、これまた調子に乗った一同もいますよね。「それでそれで?」「嘘やろー!証拠見せろやー!」などと盛り上がって無駄にはしゃぐ奴ら。周りの我々も「はいはい、2メートルね」「はいはい高校生がビール15杯ね」などと、一部は面白がり、一部はスルーしながらも、まあそれでも仲が良かった学年かとは思いますが。
別の日、虚言癖くんはまたいつものごとくたいそうな嘘を自慢げにつき、カフェテリアのテーブルの上にあがらんばかりで友人たちの注目を浴びていました。内容は忘れました。「5万はする〇〇を拾った」だの、「25歳のOLにナンパされてホテルに行きかけた」だの、どうでもいいやつだったと思います。
「嘘ちゃうって!嘘ちゃうって!ほんまやって!!ウケるやろ!!」
縦長のテーブルが何列も並んでいるカフェテリアで、一際騒がしい一角。
私とニコは数席離れたところで二人でご飯を食べてました。2メートル先で、テーブルに半身をあげて騒いでいる虚言癖くんを横目に、「うるさいな、内容がアホすぎるな」と目配せしながらニヤニヤしつつ、聞き流しておりました。
外国人がよくやる、目を上にロールして「信じられない」だの「ああアホらしい」だのの表情。ニコはあれをやりながら、遠目に見たら、虚言癖くんのスピーチを楽しんでいる一同と変わらないくらいの笑顔だったのですが、よっぽどうっとおしかったのでしょう。
うどんを啜り終えたニコが、ふう美味しかったーと丼を置き、水を飲み終えてから、こう言いました。
「なあ、自分」
一同とニコとの間には二メートルほど距離があります。まあまああります。でもニコちゃんの低い声はよく通るのです。虚言癖くんと、彼を囲んでいる同級生数名がゲラゲラと笑っていたのが鎮まりました。調子に乗ったピークで勢いを止められた虚言癖くん、「え、何」とニコを見つめます。
すこし間があって、何をいうのかなとみんなの注目がニコに集まりました。ニコは虚言癖くんの目をまっすぐ見てニヤニヤしてます。
「自分、自分のこと、おもろいと思ってんねやろ」
ニヤリ顔を崩さず、ニコはそう言い放ち。凍りついた一同がリアクションを探している間に、自分のバックパックを背負い、食べ終えたトレイを持って立ち上がりました。そしてそのまま、じゃあ、とも、またね、とも言わず、全員を放置して去りました。
虚言癖くん、マイステージがごとく気持ちよくベラベラとしゃべりまくっていた過去5分が急に恥ずかしいモノに。そして彼を囲んでいた一同も、ちょっと気まずいのと滑稽なのとでニヤニヤが止まりません。
「うるさい」の代わりにそういう言い方があるのか!と、私はうどんの汁を吹いてました。 ワンテンポ遅れて私は自分の分を食べ終え、マイペースにトレイを返却。ニコと私は合流することもなくまたそれぞれの授業に向かうのでした。
お互い、独立心が強かったからでしょうか。そんなニコと私が仲良くなるのに時間はかかりませんでした。
そんなニコが「なあ、これ弾ける?」と持ってきた曲がFairground Attractionの「Perfect」です。「弾けると思うよ」とすぐさまコードを調べて弾けるようになった私とニコは放課後のフィールドで、誰に聞かせるでもなく、むしろ誰にも聞こえないよう遠くの木の下でこの曲を二人で歌っていたのでした。
「若い心は愚かなものよ
すぐにハートをあげちゃうのね
私ももう何度もバカを見たけれど
もう二度とごめんだわ
完璧じゃないと!
二番目のベストを選ぶ人が多すぎる
けど私はごめんだわ
完璧じゃないと!」
ニコは20代で3児の母となり、イギリスとアメリカに移り住んで子育てをしながら大学で博士号をとりました。日本ではまだ馴染みが少ない栄養学を研究して、健康のためのクリニックを開くところです。二十歳前後のころは毎年必ず一緒に旅行をしたり、実家に彼女が帰ってきたときには三田の山奥に集合したりしていたのですが、今となっては会えるのは数年に一度です。
今週、私のTwitterをフォローしてくれている方は目にしたかと思いますが、この「Perfect」を歌っているボーカル、エディ・リーダー率いるFairground Attractionのご本人アカウントが私のツイート(しかも超どうでもいいツイート)にLIKEをつけてくれました。
オアシスのリアムとノエルと一緒にアコギで私がセッションをする夢をみた、この曲を三人で演奏していた、というようなマジでどうでもいい夢話を日本語で書いていたにもかかわらず、おそらくバンド名をエゴサーチしていたときに見つけたポストにいいねしてくれたのだと思います。
Fairground Attractionの1stアルバムが大好きで、といつぞや話してくれたべーシストのTOKIEさんにもすぐご報告。THE LIPSMAXでカバーをしたのもこの曲「Perfect」でした。
Fairground Attractionは今年35年ぶりに2ndアルバムをリリースしたばかり。聞いたら、今の時代に再結成してくれたこと、憂うことなく小さなかわいい光を灯してくれるようなスタイルは変わらず、時代が変われど放浪ジプシーみたいな最高なフォークバンドのままでした。
「どうしたらいいのと途方に暮れそうな時代だけど、自分にできることがないか探しているなら、それはいい指導者を見つけるよりも、他の何を変えるよりも実は簡単なこと。自分の心にまずは小さな奇跡を起こすことよ」
ニューアルバムからMiraclesという曲、とてもよかった。
ニコと放課後歌っていたあれから25年ほどたちましたけれど、まさかのご本人登場ですよと、この原稿を書き終えたら久々にニコちゃんに連絡してみようと思います。
そしてPerfectの歌詞が今となっては違う聞こえ方がします。文字通り「完璧」だと思っていたところを、「最高」に置き換えると、より、しっくり来る気がします。この歌詞を今日は皆さんに贈ります。
「最高じゃないと!
二番目のベストを選ぶ人が多すぎる
けど私はごめんだわ
最高じゃないと!」