LOVEのひろいばなし Vol.142「おい、中目黒」

東京、中目黒。
「おしゃれな街」の代名詞のひとつ。
というかですね、東京にはそのような街がいくつもあるわけで、こちらも例外ではないというだけのお話。ただ、どうおしゃれかと言われると「へへへ」って感じです。私は「中目黒・通」ではありません。
山手通り沿いはラーメン屋さんやら焼肉屋さんで溢れていて活気があるし、大型ペット用品店や激安ジーンズショップもあったし、駅の奥まったほうの商店街は純喫茶もあり庶民的な印象もある街です。ただ、逆側の目黒川沿い方面ともなれば駅の高架下に美味しそうなサンドイッチ店、ラーメン店、イタリアン、カフェやコーヒースタンドやら、何から何まで美味しそうなものが取り揃えられていて、春は満開の桜を見ながらお散歩するおしゃれピープルでごった返すエリアであるのは間違いないです。単独で出店して成立する系のアパレル路面店があること自体、やはりおしゃれなのでしょう。
デザイン事務所、音楽スタジオや事務所も多いし、お隣の代官山にかけてはアパレル系のプレスルームなども。一時期は私が所属していたDCTrecordsも中目黒と代官山の間にありました。
エグザイル系列LDHの事務所が中目黒にできた以降でしょうか、「すれ違った人が芸能人だったかもしれない風」の香りはますます増しました。高そうなコートにあえて中はジャージで黒いキャップをかぶっててすっぴんマスク系の女性、オフ日のタレント臭がする人たちもあちこちにいるし、男性も防寒対策というよりオラオラ系ファッションとしてのダウンジャケットでドンキ・ホーテから車を運転して出てくる人たちはみんな何らかの「パフォーマー」さんな気がしてくる。そんな中目黒です。
まあ一応私もですね、十八歳で上京してから最初の一人暮らしのために買ったランプは中目黒の家具屋で買ったものだったし、時間を潰すためによくいくカフェの一個ニ個ぐらいはございます。
さて、最近の私、姉①の車で送り迎えをしてもらう機会が増えまして、生放送終わりでお互いに都合が合えばそのまま合流したり、合流ついでにランチを食べたりしています。
今日は今日で姉が仕事の関係で中目黒に行く必要があるということだったので、二人で向かいました。駅から極近の東急ストアには大きなパーキングがあります。こんなに便利なところに駐車場があることがありがたい。近くのラーメン屋でつけ麺をすすってから東急ストアで食材の買い物をし、二人仲良く通りに向かったガラスの前で袋詰めをしていたら、ちょうど向かい側に「CREPE」の文字が。
クレープ。
食べたい。
あなたはどうかしらないが、私はさっきのつけ麺では満足していませんよ、と私はクレープ屋に姉を誘いました。「え、お腹いっぱいかな〜、家に桜餅があるんだよね〜」という彼女をよそに、スーパーの出口から出てくる小腹がすいた私のような人間を待ち構えているホイホイのようなクレープ屋へ直行することにいたしました。
店内からは見えなかったところにメニューが並んでいました。おしゃれな絵が描いてあるのだけど、「ベース」と呼ばれる生地が全種類真っ黒なクレープです。なんじゃこら。ダークチョコレートだのエスプレッソだのと、生地自体に四種類の味がついているらしい。おおお、さすが中目黒、高槻のジャスコ(イオンの前身)の出口にあったクレープ屋とは話が違う。さてはこれだな、おしゃれ中目黒クオリティ。チョコだのなんだので、ここまで大胆にクレープを黒くしちゃうなんざ、思い切った所業じゃないですか。
トッピングを見てみました。
なんと!王道のいちごやバナナすら、ないのです!
その代わりに何があったかと申しますと、中目黒級にもなるとですね、まずバター。で、ピスタチオクリーム。まじか、ピスタチオクリームはだいぶ魅力的です。極め付けに、「ブランデー」まであります。なるほど、そっち系ね、コンセプトが「大人のクレープ」ってことね。中目黒界隈を歩いている「大人」を満足させるために、それこそおしゃれな大人たちが集まっておしゃれな企画会議を繰り広げたのでしょう。
おしゃれな皿でおしゃれに一口大に切った黒いクレープをならべ、その様子を物撮りなのか何撮りなのかわからない目的のフォトグラファーが一眼レフで納めていく。で、「フォトグラファーも一緒に食べちゃいなよ」「僕もいいんすか?あとーんす!」、からの「あり?」「なしっしょ」「いやないよりのありじゃない?」などとおしゃれな会話を弾ませながら企画したに違いありません。さぞかし美味しいに違いありません。
ただ、完全にクレープ腹だったはずの私の視界に、もう一枚のポスターが飛び込んできました。 これまた真っ黒なソフトクリームと、グリーンのソフトクリームです。むむむ、果たして君たちは何味なのだ。
まず「リッチブラック」なるそれは、エスプレッソとダークチョコレートとのことでした。なんやて!そんなに黒くなるにはエスプレッソとダークチョコレートをめちゃくちゃ濃厚にせねばならぬはず。どんだけリッチなブラックなのか!興味が湧きました。
そしてもう一つは抹茶とのことでした。
いや、もうこうなると。
上京から早二十年以上、私ももう「おしゃれ」な「大人」として中目黒の「リッチ」な「ブラック」ぐらいはいただいておかねばなるまい、です。クレープ屋が、サイドメニューで出しているソフトクリームにこんだけのポスターサイズをさくほどの自信をお持ちならば、その心意気を受け止めましょう。
心変わってクレープそっちのけで私は「リッチブラック」を頼むことにいたしました。姉妹の勘で姉①も頼むだろうなと気配を察知し、レジ前ですでに二人分の千円札を出しながら。目線で確認してみましたら姉②もすでに小銭を取り出しておりました。そのぐらい魅力的なエスプレッソ&ダークチョコレートの「リッチブラック」です。二人とも、真っ黒なソフトクリームを受け取り、意気揚々です。
で、まずは自撮りしますわな。そんな我々のために、中目黒の細い路地でクロネコさんが微笑ましそうにたちどまってくれました。どうもありがとう。あなたにも一口さしあげたい。黒いソフトクリームがふたつ、それはダブルの喜び!
……のはずだったのですが。ひとくち食べた時点で不可解な心持ちに。
「あれ?エスプレッソどこ?」
ふたくち、みくち、と食べながら、鼻腔の彼方に探すエスプレッソの苦味。目を凝らせどこらせど、鼻を澄ませどすませど、どこにも見当たらず。
よんくち、ごくち、と食べるも、チョコレートの風味も見当たらず。
ダブルの喜びどころか、ダブルの不在。おとんもおかんもいない。ばあばもじいじもいない。鍵がないから家入れない、夕方の小学生、玄関前の気持ち。
しかも、濃厚じゃない。わりとサラサラ系。
東急ストアの駐車場に向かいながら、言葉少なに姉と確認しあうも、彼女も同じリアクション。甘い、は、甘いのですよ、牛乳ソフトみたいな味はする。だがしかし。
……………………………………………まずいんです。
どちらも口には出さないが、正直に申し上げて美味しくないのであります。
とはいえ、ソフトクリームですよ。「まずい」ったって限界があるわけで。甘くて冷たくて、牛乳の味がするならまあいいじゃないの、と胸中で全力でかばってみたりします。
ただし、こうなるとどうしても不可解なことが一つ。二人とも共通してとある疑問がぬぐえません。
「じゃあ何でこんなに黒いの、これ……」
味から判断するに、コーヒー豆の黒さでもなく、ダークチョコの黒さでもありません。なのに、ガチで真っ黒なんです。食べた先から二人とも唇も真っ黒になるし、歯も黒くなりました。笑っちゃうほど黒い。不可解でしかない黒さです。
「じゃあなんでこんなに黒いの」
「我々はいったい何を食べているの」
車に乗るまで検証する我々。荷物を積み込み、運転席と助手席に座ってからもなお検証すること数分。さすが長女、彼女のほうが先に英断を下してくれました。
「だめだ、ギブ。何食べてるかわかんない」
「ええ、ギブ!?どうするの!」
「袋もないしなあ。あ、お弁当箱ある?出して」
その日はたまたま姉がお裾分けで渡してくれてスタジオで朝食べ終えて空になっていたお弁当箱がありました。
「くそう!なんだこれ、何を食べたっていうんだ」
姉①が悔しがりながら、お弁当箱にソフトクリームのコーンを「ギブ」していきます。が、長さも高さもギリギリ入りません。付属のスプーンでコーンを潰すしかありません。えい、えい。
と、その拍子に中身が跳ね返ってきました。
「ああああ!飛んだ!黒いの飛んだ!とれんのこれ?ねえ、何がついたの?ねえ、なんで黒いの?」
シャツに付着した「黒い何か」の数滴。一生懸命おしぼりでふいてみるものの、どんどん広がる黒いシミ。戦っている相手がわからない。だいぶシュールです。
で、まずいものはまずいです。私もがんばろうと思ったもののやはり無理で「ギブ」することに。ふたりしてスプーンでコーンを潰しながら弁当箱になんとか「リッチブラック」の残骸をおさめ、蓋を閉じました。
密、そして、閉。
「エスプレッソとチョコって書いてあったよね」
「炭?それともイカスミか?」 「いやどこにもそんなことは」
「書いてなかったよね」
「これに一人五百円も」
「ぐうう、ちくしょう、五百円も!
「中目黒め」
「くそう、中目黒め。おしゃれが過ぎるぞ」
「だから何の黒さだったのってば」
「わからん、炭かイカスミか」
「書いてなかったよね」
「だよね!?くそう、これに一人五百円を」
帰路についた我々、笑いながらも堂々巡りし、悔しさをGoogleにぶつけて検索しました。
「クレープもソフトクリームも炭が練り込んであるんだって」
「なんだよ〜、普通じゃんか!」
「でも炭のことなんか全然推してなかったじゃんか!」
というわけで謎が解けてよかったのですが。言われたことと手元にあるものが一致しない不可解さって、まずさに直結するのかもしれない、という新発見。
もちろん、ものすごい好きな人がいるのかもしれないですし、後ろにも人が並んでたし、車出すときにチラ見したらさらにお客さんもいました。炭とわかって食べれば美味しいのかもしれませんし、万が一読者にお店の関係者の方いたらごめんなさい。だけどね。やっぱりね、ほら、言わせてくださいましね。
……おい、中目黒。おしゃれが過ぎるぞ。
カタカナ系はもういいから、時には「むしろ炭味」って漢字でどーんと書いておいてくれ、な。

ソフトクリームにたどり着く直前。平日の昼間なのに、中目黒駅前にものすごい行列が並んでいたので姉①がこの行列の正体を知りたいと申しました。
「ああ、多分ドーナツ屋さんだよ。駅の横断歩道の正面、並んでないとこを見たことがないんだよ」
二人でぐねぐねと曲がる行列の先頭まで確認しにいきましたらやはりそうでした。ドーナツ屋です。
さぞ美味しいのでしょう。ただ、あの行列に私が並ぶことは一生ない気がします。性格的に無理。つまり、一生のうちに食べれる日が来るかどうかわからないドーナツです。そう思うと食べたくもなる。
「I’m donut?」という店です。文法なのか最後の「?」なのか。何かが気になる。若干のおしゃれ警報が出てる気もしますがこういう時は深く考えてはいけません。
二人で先頭まで行ってメニューだけ見てきましたら、「カスタード/ピスタチオ/チョコ/グレーズド/フランボワーズ/プロシュート」となっておりました。なるほど、いい具合のラインアップです。それぞれ美味しそうな食品サンプルが並んでました。
「うわ、プロシュート乗ってる〜!」
姉①、喜んでいるのか嘲笑っているのかわからないトーンで、揚げドーナツにちょこんと座らされたハムを指さしていました。
こちらのブツは「生ドーナツ」だそうで。いやこれ多分間違いなく美味しいパターンだろうね。ベーコンとフレンチトーストとか、パンケーキとか、甘じょっぱいは最強の組み合わせだからね。
帰宅後調べてみたら、福岡は博多のベーカリー発祥だとか。あのマリトッツォの火付け役の方が一号店を中目黒にオープンして以降都内には数店舗あるそうです。ふーん。でもやっぱり一号店は中目黒だったんだ。
ってまた言いたくなってしまった。
おい、中目黒。やっぱりお前さん、おしゃれがすぎるぞ。