LOVEのひろいばなし Vol.141「トレバー・ノア味」

どこかで話したことがありましたでしょうか。

南アフリカ出身のコメディアン、トレバー・ノアをご存じの方はどのくらいいらっしゃるでしょう。日本ではあまり知られていないのではと思います。

八十四年、アパルトヘイト真っ最中の南アフリカ、ヨハネスバーグにて生まれた現在四十歳。私の一個下ですね。黒人の母と白人の父の元に生まれ、当時の法の下では存在自体が「違法」となった赤ちゃんで、「BORN A CRIME」=「生まれたことが犯罪!?」という自叙伝も出しています。

その後ヨーロッパでスタンダップコメディアンとして成功しつつ、ついにはアメリカのコメディチャンネル内の長寿ニュース番組「The Daily Show」のMCを二〇十五年から七年間勤めました。トランプ政権からパンデミックまで、頭の回転が恐ろしく早い彼独自の解釈で、アメリカをぶった切りながら励ましてきた司会者です。

ネットフリックスにいくつか彼のスタンダップコメディスペシャルがあるので、年代順に見ることをおすすめします。

ネルソン・マンデラやらトランプ氏やらのモノマネがめちゃくちゃ上手だったり、彼の母親の話はまるでどこか異次元にある大阪の西成のオカンの話を聞いているかのようなローカルさがあったり。南アフリカのカルチャーを全く知らないはずの私ですが、初めて彼のコメディを見た時から大笑い。あくまでもコメディアンながら非常に鋭い知性と才能でまっこうから国際政治のアホらしさを浮き彫りにしていくその話っぷりに私はファンになりました。

彼の自叙伝は日本語訳も出版されています。一部アメリカの学校では教科書がわりに読まれるようになったとも聞きました。その価値は十分にある内容です。

彼のキャリアが面白いなあと思うのです。というのも、 The Daily Showのホストを務める、ということは、日本に例えるのはとても難しいですが、報道ステーションをタモリさんとして担当するようなものでして。政治のパロディなんですね。コメディチャンネルのニュース番組というもの自体、日本には存在していないジャンルの番組ですから説明が難しい。

トレバー・ノアの前にも歴代ホストがいて、番組自体は九十年代からスタート。共和党/民主党かかわらず、歴代の政権をコケにし続けています。またレポーターもみんなコメディアンで、時にはホワイトハウス前からレポート、時にはカナダなど他の国の首相にもインタビュー、番組最後には元オバマ大統領から話題の汚職議員から、ありとあらゆる人たちが芸人さんたちにインタビューを受けるのです。あくまでもパロディですから政権演説のようになるわけもなく、特に釈明もできず。

そんな様子が小気味良いということで、若者に人気の番組となりメインアンカーのバトンは名誉ある役割として受け継がれ、今まで続いています。

私は、この日本バージョンが、見たい。ものすごく見たいのです。

「今週、岸田総理は裏金問題に対しとうとう後に引けなくなったのか、捨て身の漢気を見せています。“俺も出るからお前らも出ろ!”と五人の関連議員を政治倫理審査会の場へと出すことに成功!これは偉大なる所業として歴史に残るかもしれない世紀の瞬間です!漢の中の漢、岸田総理の新たなる金字塔となりうるこの証言ですが、レポーターのチャンさん、総勢五十一人もの裏金議員がいるにもかかわらずその中から五人を選び抜いてスターティングメンバーとしたこの流れ、一体何が決め手となって選抜メンバーが決定したのでしょうか?」

みたいなことです。

多分、バスケの選手にでもたとえながら「小回りが効くから」「背がでかいから」「すぐキレるから」「ドリルで証拠隠滅できるから」などとレポーターが答えていくのでしょう。

ああ、そういうのが見たい〜。

この茶番を、法的問題は法的問題として、茶番は茶番として、色分けして見せてくれる色眼鏡みたいなコメディニュースチャンネルが欲しいのです。

ただ、アメリカは日本よりまた次元を超えた「ヤヴァさ」だなと。トランプ政権を相手にこのようなパロディニュースがあり、より分裂が深まった時代に政権が交代したと思ったらバイデンさんと共に戦争、終わらない武器の援助と正義の介入武器輸出国家アメリカが帰ってきてしまった。

ある意味ではコメディーって浄化の役割がありますね。ただ、その浄化の役割ってけっこうカロリーが高い作業なんじゃないのかなあと思っていた私は、アメリカの国内ニュースを背負う番組に日々の脳を支配されるよりも、世界を股にかけてコメディーツアーをしてさまざまな国の文化に触れながら自由に話すトレバーノアが少し恋しくもありました。

そして、案の定というか、彼は番組を二○二二年に降板しました。さすがアメリカに飲まれない男。今は、スポティファイでも聴けるポッドキャストを続けています。それに気づくのが遅かった私は、第一話から順にたっぷり聞ける喜びを噛み締めております。

「What now? With Trevor Noah」このポッドキャストは毎回彼が会ってインタビューをしたいゲストを招いています。例えば、黒人/ミクロネシアのルーツを持つドウェイン・ジョンソン、元プロレスラー、むっきむきの俳優さん。なぜ彼を?と思ったら、実は二年前には世界で最も稼いだ俳優でありながら、あまりにも裏表がなく人柄がいいことで有名で、価値観の分裂がすすむアメリカで民主党支持者・共和党支持者の隔たりなく四十三%以上が「ドウェイン・ジョンソンに大統領になってほしい」と答えたアンケートがあったりするとか。トレバーがとにかく彼のものの考え方、人生との向き合い方が好きらしく、その秘訣を掘り下げるような内容でした。

かと思えばビル・ゲイツがゲストの回もあります。ご存じ元Microsoftの最高経営責任者ですが、現在ではビルゲイツ財団で慈善家。マラリア撲滅運動に力を注いでいますが、「多分ビルゲイツの個人の人生にはマラリア患者がいるとか家族をなくしたとか、なんにもないのに。関係ないのにいきなりどうして人類のためとかいって方向転換したの?その背景には何が?」と率直な疑問をぶつけていきます。話はコンピューターやインターネットの存在自体が「人類のため」でビルもトレバーも大好きなものだったのに、 SNSの登場以降、いかにその存在自体が人間の在り方に悪影響をももたらすようになったか、そしてその罪と功績についての話になったりします。

このように、世界的にメジャーなゲストもいれば、言われてみれば見たことがあるという女優さんまで。ただ、必ずなぜその人を呼んだか、角度が面白い。おそらくトレバー・ノアの触覚が向くほう、生きることに前向きで、知的で素直な方と対談している印象です。

もうずいぶん前になりますが、渋谷J-POP CAFÉで私が月一で開催していた「LOVE・YA・DAY」という定期イベントがありました。ゲストをお呼びして、半分はトークショー、半分はライブ。十五代目の花火師さんや戦場ジャーナリスト、手塚治虫さんの御子息でもあるビジュアリスとの手塚眞さんなど、ダメ元でオファーしてブッキングし、それぞれの分野のプロフェッショナルのお話と「あなたにとっての愛とは?」という質問を共通に展開していたイベントでした。デビュー当時ですから二十代半ばですね。当時からもう私の方面はそういうものだったという証拠のようなイベントでしたが、人それぞれに違う愛の形や答え、思想があるという勉強になりました。

トレバーノアのポッドキャストを聞いていたら、今の私バージョンで、あの対談ライブのようなものをまたやりたくなりました。

というか。今、ラジオ番組をホストするようになって十三年。本来ならばラジオがそういう場所なんだよなあ。といいつつ昼の番組でできることの限界もありますから。別の企画として、放送できる場所はないだろうか。東京である必要もないです。

トレバー・ノアが大陸を移動しながら、キャリアの階段を登り、おそらくですがその時々の自分の成長と知的興味に合わせて仕事の場所や環境を変えているように、私の仕事もきっと同じことの繰り返しをやっているかのように見えてこれからも変化だな!なんとなくそんな兆しを感じています。

先のことはわかりませんが、休み明け、復帰したらまた色々流れが変わるのかもしれません。一緒に考えてくれる制作者の方いらしたら、トレバー・ノア味のする何かを。今のうちから企画書募集したいです、笑。

 

大昔、私も出演させてもらった桃井かおりさんがホストの対談番組、NHKの番組。タイトル忘れちゃったけど、あれ好きでした。「まつもto なかい」などもよりエンタメよりですが面白い番組だなとは思っていました。対談類は人がら次第では面白い。

ただ、多くの場合どうしてブッキングは「著名人」という物差しがまず一番の基準になってしまうのだろうとずっと思っていました。って誰のこと言ってんの、って必ずなりますけど、うーん、ぼかさないでいうと、笑。なんでテレビもラジオも誰も彼も、秋元康さん、絶対一年に一回くらいは呼ぶの?裏方の人ちゃうの?そないに話聞いてて学びもなけりゃオモロくもないの私だけ? 私の感性が偏っている?別に彼のことを言いたいわけじゃないけど(会ったこともないくせになんなら失礼ですね、ごめんなさい)。

世武ちゃんこと世武裕子ちゃんの日記を読んでいたら、芸能界における「著名度」とその人となりの「信頼度」が比例しないことは常識なのに、的なことが書いてあって、そうだった、と私も思い直したのでした。

テレビに限らずですが。「著名かどうか」で視聴者の引力の増減は大いにあります。ですから、視聴率なり聴取率なり、ビジネスを成立させるには半分くらいその著名度に頼らせていただき、あと半分は、何を世に届けたいかの各メディア理念が優先されるといいなあと思うんです。

話が面白い人、やっていることが素晴らしい人、人の役に立つ画期的なことをしてらっしゃる人。いっぱいいるから!どんどん「いい大人」を目にする機会を増やせたらいいなあと。

最近では、ニュースでピックアップされる、もしくはピックアップせねばならない、無視できないほどの権力ある大人のみなさんの案件が茶番すぎて、伝える側の人たちもうんざりしているんだろうなと思ったりします。当然ながらそれを受け取る側もうんざりでしょう。世の諦めモードが加速しないようにできることないかなーと思っていたところ。

だからトレバー・ノアのポッドキャストみたいに、素敵な大人をフィーチャーしているメディアには大変救われる思いがします。私もそういう仕事をもっとやりたいな!


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