LOVEのひろいばなし Vol.138「すべてのモノに楽屋を与えよ」

いつからか、猛烈に整理整頓が好きになってきました。そう、モーレツに。
二十代の頃、山積みの洗濯物やらジャンクに埋もれていた私です。クローゼットの中に入りきらない思い出グッズやらお土産やら何やらを全てとっておりました。嗚呼、あの時代が懐かしゅうございます。今となっては、切り捨ての鬼。「そうやって俺のことも忘れたんでしょうよ」「あんたってほんと薄情な女ね」と、恨まれていてもおかしくないほど。物に、なのか、人に、なのか、両方なのか。
特に、今の家に引っ越してきた時の「収納の少なさ」が最終的な転機でした。
当時、季節外れの引っ越しまで時間がなかったうえにろくな物件が見当たらず。防音室の設置には毎回大家さんの許可をとりますが、最後二つ残った候補のうち片方を断られてしまった私に選択肢はありませんでした。それが今の家。押し入れ半間とポールのクローゼットが、腕一本分くらいの、部屋。それまでにだいぶモノを整理整頓できるようにはなっていたものの、収納が少ないのはまったく本望ではなかった。仕方がありませんでした。
しかしこれも宇宙からのお告げだったのでしょう。「お前さん、もっと整理整頓、いけるよね」と言われていたとしか思えない。
二十代の頃長く住んでいた部屋は、押し入れが二間〜ニ間半ほどありました。音楽で生業を立ててきた二十年ほど、私は衣装を「いつかまた着るから」と溜め込み、ありとあらゆる資料を溜め込み、楽器は楽器で集めてきたのです。とにかくぶち込んでおけばよかったものの、今となっては同じ分量が入るわけがありません。
何よりも捨てたくないので後生大事に持ち込んだギターを数えてみたら、十一本ありました(一丁前に!)。ただし、その中にはほとんどジャンクギターとも呼べるものもたくさん。私が中二の時にゲットしたマイファーストギターは、同級生のナオちゃんのお母さんが「二十年まえに三日だけ弾いた」というクラシックギターだったし、大学生くらいのときに姉の友達から流れてきた「錆びてもなんでもいいから好きにビーチギターにでもすれば」という代物もあった。そしてもちろん、プロになってから一本一本買ってきた大事なギターたちもあるし、恩師がくれたギターもありました。だから捨てられないのよ!と信じ込んでいたけれど。さすがに十一本は押し入れにも入らない。使わない楽器を寝かしておくほど楽器に失礼なこともなかろう、と次第に思うようになりました。
そう、クローゼットや押し入れは、放置するための「倉庫」ではないのです。使われるその日を楽しみに出番を待つ、ライブハウスの「楽屋」だと思えば。
ライブハウスの楽屋は確かに「物置兼用」的なバイブスを放っている場所もあります。それはそれで、最高だったりします。だとしても、やっぱりちゃんと照明や鏡があると、これからステージに出ていくんですよという準備ははかどるもんです。
もしもフェスのバックステージが、男女別にもバンド別にも分けられていない豚箱状態だったら?バンドマンたちはどうなるでしょうか。ナンパし放題、迷子になり放題、酒飲む人飲まない人、入り乱れてマッチョが喧嘩し放題(知らんけど)。主催者としては、出番が来たので迎えにきたアーティストがどこにいるかもわからないでしょう。というわけで、私は全てのモノに「楽屋」を与えていくことにしました。
はっきり言って、私の脳内は、放っておくと、豚箱状態になりやすい。 ADHDだか発達障害だか。なんらかのスペクトラムの軽度にあたるらしいので、異常なほどにおおざっぱで無関心か、異常なほどの集中力と緻密さとか、時と場合によってその波が激しいそうです。
それ自体はまあ悪いことではないのですが、自分で一番困るのは、過去の自分がテキトーだった場合、モノがあるべきところになくて、探す時間がとられるということ。すぐにでも曲を作りたいのに、部屋が乱雑で集中できないからまず三日くらいかけてなぜか風呂がピカピカになるまで掃除をしないと気が済まないということ。制作にお風呂なんて関係ないのに、一回やりきって頭をスッキリさせてから、いざ制作に入る。そうすると今度は同じ集中力が曲作りの方に向く分、部屋はしばらく散らかし放題にできるわけです。二週くらいたって「ふう」と一息ついてあたりを見渡すと、泥棒が入ったかな、なんでキッチンにお皿が山積みなのかな、という状態になっている。主にこれが昔の私のルーティンでした。今でもちょっと名残がある。
で、もうそれが本当に嫌になったタイミングがあったのです。自己嫌悪のピークだったんでしょうね。以降、徐々に徐々に、どうやったらこの脳の特性とうまく付き合えるのか、綺麗に暮らせるのか、学びながら工夫を始めてみたのです。多分、十年くらいかかってると思います。
こんまりこと近藤麻理恵さんの登場はかなりすごかったですね。ときめくものだけ残しましょう、の「こんまりメソッド」。あれは、可愛らしい日本人的でフェミニンなこんまりさんのルックスや声でだいぶ中和されていますが、究極のドS整理整頓法でした。
もし、海原やすよともこ(知らない方はご検索を)くらいの、日常会話か怒ってるのか絶妙にわからない関西弁で同じ内容が再生されていたなら。
「いっぺん全部出せや、な。見えへんところに残すな。隠すな。服だけでもええから、いっぺんベッドの上に全部のるかどうか、試しにやることやな。ほんで、よう見てみ。どんだけいらん服持ってるか、ちゃんと自分の目ェで向き合えェ言うとんねん」
やってみましたとも。そして、ええ、震えましたとも。
何だこの「いつか着るかもしれない♡」ととっておいたナイトドレスは。どこへ行くつもりだったのだか。そして、どんな男と付き合うつもりだったのか。万が一、そんな機会がきたとして、もう趣味も変わってるし、他の服を選ぶでしょうが。マライア・ドレス、クビ。ありがとう、さようなら。そして残りの使えそうなお前たちには楽屋を与えてやろうじゃないか。
一生使えるものは、永久楽屋へ。 数年に一度は買い換えるものは、通常楽屋へ。 そもそもムカデじゃないので、靴下は引き出しいっぱいもいらない。ミニ楽屋へ。 それでも捨てられない思い入れのものもある。名誉楽屋へ。ただし、レジェンドに二流は混ぜない。
話は飛ぶようですが、いくら弾き語りのギタ女が好きでも三時間超えの弾き語りイベントをずっと立って見ているのには限界がありますよね。イベントで考えると、同ジャンルは毛色違いでも三〜四組までが個人的には限界。一度ドラムとか踊れる音楽とか挟んでもらわないと足がぷるぷるする。あれと同じで、重複する者たちには、制限をかけてやりました。これが意外とむずいのです。セーター4組は結構きつい。もっと欲しいぃ。
続いて、レジェンド枠についてです。もしあなたがイベンターだとして、「アレサ・フランクリン」「キャロル・キング」「エルトン・ジョン」などの出演カードを持っていたとして、使わずにしまっておきますか?否。同じく「いただきものの皿」などの、高級で貴重なモノたちやブランドものも、もったいないからとしまっておくことに、ほとほと意味はないのです。ご出演の準備をしていただきましょう。
ちょっと頭がおかしい人みたいになってきましたが、私の所有物は、すべてがアーティストやスタッフ、クルーや機材なのです。どこの誰なのかよくわからない「いるだけ」みたいなスタッフさんもどきが楽屋廊下を数十人うろうろしている会場より、エキスパートが各パートに一人配置されている、あの会場の歩きやすさを目指して!
すべてのモノに楽屋を与えよ。 全ての引き出しや戸棚を、ステージ裏の楽屋だと思え。 そして己はフェスを仕切っているイベンター業者と心得よ。 出演者の楽屋と、導線を、極限までスムーズに設定せよ。
そう、これが私の整理整頓の極意なのです(ここまで書いてなお、逆にわかりづらい)。

脳内の海原やすよともこと一人で会話をし続けて数年経ったある時、ある時、私は悟りの境地に辿り着きました。ブッダが悟りを開いたかのような、それはそれは明朗で視界がぱあ!っと開いてゆくような「気づき」でした。
その日、冷蔵庫のジャムが大量の種類になっておりましてですね。もはやジャム専用の冷蔵庫かって感じになってましたので、一個ずつ賞味期限切れを確認しはじめたのです。そんな私の肩に、「やっとジャムに手をつけたね…」と神が手を触れました。瞬間、悟りが降りてきました。
「はっ。そうか。冷蔵庫の扉に入る以上のジャムを、買わなければいいんだ…!」
ってことは?それ、全部に共通して言えるよね?
「決めた靴下箱に入る以上の靴下を持たなけばいいんだ」
「デスクのサイドに収まる以上の文房具を持たなければいいんだ」
「クローゼットに入る以上の服を……持たなければいいんだ!!!!」
……わあああああああ!!!!!
スペース自体が、私の代わりに法を制定してくれていたことに私は慄きました。なぜ今まで気づかなかったのだろう。
そして立て続けに神が言うのです、「じゃあさ、スペースを確保するために、まずできることがあるよね…」と。
すぐに気づきました。私のクローゼットの中には、「壊れてるけどいつか直そう」が二箱、「そのうち整理しよう」と思っていたCDとHDのジャンクボックスが四箱。全部で六箱もの楽屋を埋めていたのです。すかさず、海原やすよともこがかぶせてきます。
「見えるとこに出しときや。で、直すか捨てるか整理するか、片っ端から手をつける、な。来月ちゃうしな、次の休みはそれに一日使う、やからな、絶対」
かくして私は徐々に整理整頓の成功体験を積み重ねていったのです。
ちなみに、見える場所にないものは「イコールない」になりがちで再度買ってしまうので、各箱に何が入っているのかのリストすら作るようになりました。ああ、極端。でも気持ちいい。
つい最近はキッチンを全てやり直しました。考えなくても必ず同じところに戻せるように、楽屋をすべてラベリングしてやりました。母はそんな私の姿を見て「なんやこわいわ」と完全に引いておりました。まあ、けどこれで日々考えなくて済むし、書いてある通りに戻せばいいんだし、この特性には向いているはず。将来の時短になるはず。期待です。
どうしても整理整頓ができない人、世の中にはけっこういるっぽいです。脳の作りのせいっていう人も結構いるらしいですよ。ですが、システムさえ組んでしまえば、絶対にマシになる。カオスだった私が言うのですから、間違いありません(妙な自信)。