LOVEのひろいばなし Vol.116「中村ぼのより陳情書」

中村ぼのです。お世話になっております。

普段は飼い主さんがお仕事で忙しい時ですとか、体調が思わしくない時などに代筆を頼まれております。ぎりぎり皆さんに伝わるかどうかの「ぼの語」で執筆させていただいておりました。

「ぼの だよ。

かいぬし、しごと、ばっかり。れんしゅう、うた、うるさい」

などとたどたどしく愛らしい言語で何度か登場させていただいておりますので、お見知り置きいただいている方もいらっしゃるかと存じます。

ただし。

今回に関しましては、飼い主さんから頼まれているわけではなく、私の方からどうしても物申したい案件がございまして、この場をお借りさせていただくことにいたしました。

なお本日は、私の陳情が寸分の誤解もなく皆さまに的確に伝達されるよう、今回に限っては「齧歯類翻訳機」を使用いたします。マシン経由でのお届けとさせていただく旨、ご理解ください。

ちなみに、同じ齧歯類でもハムスターですとかラットですとかと一緒にしていただいては困ります。ハムスターをこの「齧歯類翻訳機」にかけたところで、AIが吐き出せるのは「ひまわりの種うまい・ひまわりの種うまい・ひまわりの種うまい」ぐらいのものです。私はこの度、うさぎ族を代表し、我々の知能の高さを知っていただく機会としても、陳情書という形で提出させていただきたく存じます。

皆様はうさぎの能力をどのくらいご存じでしょうか。動物界の食物連鎖、最下位に位置する我々うさぎ族は、捕食動物がゆえ生き残りをかけた全ての知恵を「逃げる」「食う」「数を増やす」に集中させて繁栄してまいりました。

そんな一族の末裔である私ぼの、現在三歳と五ヶ月、人間で言うところの三十四歳あたりでございます。男子としても働き盛り。多少の徹夜などまだまだ守備範囲のうち、飲み会に営業に力仕事に、いくらでもこなせてしまうほど、なんなら家族を持っていてもおかしくない。そんな若さと生命力溢れる世代でございます。

なのに。

そんな世代の私の食事がですよ。

一回につき十グラムなんです。

それを一日二回、合計でも二十グラムとなっているこの現状。これを皆様はどうお考えになるでしょうか。

ええ、全くピンと来ないでしょうね。

一応、私の現在の体重に対して「健康のために的確な分量」だそうで、そう言われると、こちらも文句はいいがたい。ちなみに人間に換算すると、六十キロの大人が一日に九百グラム、お茶碗六杯の白米を食べている計算と同等です。十分じゃないかとお思いになることでしょう。

ですが。

もふもふ生物たるもの、年に四度は全身の毛皮を脱ぎ換え、一から毛を生やし直して暮らしている身。人間の皆さんにこの感覚を理解していただくのは非常に難しいとは承知しておりますが、これではまったく足りないのだと、私の止まらない食欲が切に訴えておるのでございます。

飼い主は言うのです。

「十分生野菜もあげてるでしょうが。干し草だって食べ放題だし。時々あげているフルーツはなんだと思っているんだい」

ええ。ドライフードに合わせまして、一日約一カップほどの生野菜。キャベツやらレタスやらブロッコリーの端っこやら。いろんなおこぼれをもらっております。ときにりんごのはしっこやメロンの皮などという高級品をいただく場合もございます。

そして干し草に関しましては、ええ、二十四時間、たっぷりといただいております。ただし、これは我々のうさぎの胃腸の作り上、二十四時間以上空腹が続くと死の危険があるため、低カロリーの干し草をつねにはみ、伸び続ける歯をすり減らせる目的も兼ねて、それはもう一日中、ほぼ惰性で噛み噛みし続けている次第なのです。これは運命なので、食事のうちとは思っていただきたくない。

関西人が「バーン」とやられたら「うっ」とリアクションするがごとく、アメリカ人がハイファイブをするが如く、マサイ族がジャンプするがごとく、うさぎは干し草を当たり前のように噛んで暮らしておるのです。

ですから、私はやはりこの栄養価の高いドライフードこそが食事である、そう捉えているわけなのです。三種類ものブランドを配合して独自のミックスを作ってくれている飼い主には感謝しかありません。ただ、それが、一日たった二十グラムだなんて。

ああ、もっと食べたい。もっと、もっと、食べたい。

我が部屋には、自動餌やり機が備え付けてございます。ちょこちょこと旅やら出張がある飼い主ですので、留守中も定時に一日二回ドライフードがこぼれ落ちるように設定された縦型の餌やり機。

その下部には、取り外して洗えるトレイがついておりまして、そちらにドライフードがこぼれおちた音がするや否や、私は飛びついていただくことにしております。食事は出されたら暖かいうちにすぐ手をつけるが礼儀でございます。

でですね、皆様。前置きが長くなりましたがここからが本題です。

最近、私、発見してしまったんですね。

このトレイを揺らせば、追加でパラパラとドライフードが落ちてくるということを。こいつはしめた、でございます。

うさぎ族が誇る立派な顎の力を駆使しまして、私はこの一ヶ月ほど「トレイを揺らす」を日課にするようになりました。やたらめったら、手あたり次第、いろんな角度で揺らしまくっては落ちてくる追加のドライフード。これをおやつにするだけで、私のつまらない毎日は薔薇色になりました。

そこまではよかったのですが、時として豪快にトレイが外れるのでございます。こいつが困った。

トレイが外れてしまった後は、本来の食事タイムに落ちてくる本家の十グラムが、床面に落ちてしまうのです。

ご説明差し上げますが、我が部屋の床面は網になっております。その下には部屋のサイズと同じサイズのゴミ受けトレイがございまして。

おわかりですね。私はおやつのためにトレイを揺らしたかっただけなのに、本来の食事の時間がくるたび、床面の網の下に落ちてしまった手の届かない夕飯をただただ見つめて過ごす、という拷問にさらされることになったのです。

誠に遺憾に思っております。

見かねた飼い主による「トレイ戻し」と、引き続きおやつが欲しい私の「トレイ揺らし(はずし)」の攻防戦がしばらく続いていたのですが、先日、飼い主が新たな手を打ってきました。

もともと床面すれすれになるように設置されていた自動餌やり機のトレイ、その位置をちょうど私の首の高さになるぐらいに変えやがったのです。

ギリギリ頭を突っ込めばドライフードは食べれる、されどトレイを噛んで揺らそうとしても自慢の背筋力を発揮できない、ちょうどそんな高さに変更されてしまったわけです。さほど強く揺らせなくなってしまったため、追加のドライフード、おやつはもう落ちてきません。

ぐぐぐ。悔しけり。

というわけで皆様に、この状況をまず知っていただき、飼い主に対するストライキなどの処置をとっていただきたく、陳情書とさせていただいた次第でございます。

こんなことでいいんですか。

最低限の生活の保証、それだけでいいんですか。

うさぎのQOL、生活の質は飼い主の責任じゃないのですか。

私は毎日シャインマスカットを食わせろなどと、高望みをしているわけではございません。

最低限の栄養の保証のみならず、ほんのちょっとのバッファや遊び。それこそが、人生のあるべき姿ではないのですか。

「齧歯類翻訳機」をここまで駆使して私が訴えているこの案件、いったいどの役所にこの陳情書を提出すれば、中央政府は防衛費の一部を「うさぎ生活の質向上」に回してくれるというのですか。

だいたい日本政府のでたらめな予算組みにはもうほとほとうさぎとしても呆れ果てているところ。いったん世界のこんまりさんにでも頼んで各省庁の断捨離を徹底しないと、今でも十分にあるはずだった税金がいつまでたっても必要なところに落ちていかないのではないですか。

誠実に慎ましやかに暮らしている日本国民、一般庶民の懐を自動餌やり機のように揺らせば出る金があると思ったら大間違いですか……ら……だいたい誰がこの……をいまだに支持……人間のQOLがいつまでたっても上がらないからうさぎが後回しになるのではないです……か…

---ゴゴゴ---

---ゴゴゴ、ががが---

しまった、テンションがあがりすぎて「齧歯類翻訳機」を揺らしすぎてしま……ピーーーーーーーーーーーーーーーー

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>「ドライフードうまい・ドライフードうまい・ドライフードうまい」

 

齧歯類翻訳機があったらいいなと思います。何考えてるかわからん。

帰宅するたびに下のゴミトレイから集めて皿に入れてあげなおしてたんですけど、絶対自分のせいだとはわかっていない。なんなら私のせいだと思っていると思います。

トレイを揺らして追加のドライフードにありついたうさぎの賢さと、やりすぎてトレイ外れちゃって夕飯食べれてないうさぎのアホさ。

どちらも大変可愛いなと思うものの、おそらく本兎にとっては一大事だと思うので対処させていただきました。


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