LOVEのひろいばなし Vol.109「古代出雲ミステリーツアー:後編」

出雲の国にいる、ドタバタフレンズ二人組。
「姉、弟、妹、全部制覇しちゃろう〜」
ドラムス刄田綴色さんのご案内で、彼の地元島根のライブに合わせて、出雲大社近辺の神社を巡っていた私たち。目指すは、姉:天照大神、弟:須佐之男命、そして、なかなか姿を表さない妹:月読命。出雲の月読神社は、地図にはあるけど隠れ神社と言っていいでしょう。
国道沿いの山道の入り口を見つけるのに一苦労、その山道を登るにも一苦労。一人では絶対に行けなかっただろうと思います。はたくんと私、探究心に導かれてなんとか神社を見つけ、お参りを済ませ、意気揚々と、来た山道を途中まで下ってきたところ、眼前に、苔むした遺跡がふわっと現れたのでした。
大きな石の玉と、それが乗っていただろう円柱が崩れてはいたものの、きっと大昔の偉い人のお墓だったことがわかります。手を合わせて、いざ下山しようと小道の逆側を振り返りましたら、さらに。
「なんだこれ……!」
登る時にはまったく気づかなかった、小さな広場が森の中に続いていたのです。そして、十ほどでしょうか、大きな円柱が空に向かってそびえ立っています。大迫力です。
ひとつも崩れておらず、先程の遺跡よりも圧倒的に高さがある。一部は黒ずんでいて、ものすごく古そうなものもある。
L「え、来た時こんなとこ通ったっけ」
H「やばいやばいやばい、これすごいやつだよ多分」
L「完全に現代のものじゃなくない?」
なんなんだ、この形は。
🕰午後五時前、古代出雲・遺跡風ミステリー墓地、発見。
よく地方によって墓の形は違うとはいうものの、これは見たことがない。中でも黒ずんでいるものは「年代物」などという言葉では表せないほど年季が入っていました。
怖くはありません。日もまだ高いですし、西の国での夏の日差しは長いです。ただ、通ってきたはずの小道沿いで、こんなに大きなものを見逃していたという事実もあいまって、ぞぞぞ。
月読さんにやっとご挨拶した後に、初めて“どどん”と現れた古代出雲の遺跡風の何か。そのミステリー感に飲まれた我々。
H「どうする、次きた時、なくなってたら」
L「やめてよ。ねえねえ、ちょっと近くで見たい気がするんだけど、どう思う」
H「うん、こんな機会はないからそうさせていただきましょう。失礼します」
頭を下げて、緑の草を静かに踏み進んだ我々。お邪魔します、と心の中で唱えます。あたりはとっても静かです。木々の葉っぱがサワサワと揺れていて、まるで夏の隙間に落ちてしまったかのような。このまま山を降りたら、車とか家とか全部なくなってて、古代出雲にタイムスリップしていたらどうしよう。
H「デザインやばい。宇宙だあ。(岡本)太郎もびっくりだよ」
円柱の表面には小さな渦巻き状の雲が無数に刻まれていて、その上にはどれも立派な玉が鎮座しています。
はたくんはこの渦巻きデザインに、宇宙を見たようです。私は私で、雲海にみえました。というか、まるで雲が上の玉を運んで右回りに流れているかのようだ、と思いました。
L「きっと立派な方々のだよね」
H「そうだね。見て、書いてある、”九十七代、貞子”だって」
L「その墓石だけは比較的新しいから、きっと最近のご子孫の方じゃないかな」
H「先祖代々、すごいねえ」
L「ほんとに、すごいねえ」
下の方には花を生けられるようになっていたから、それはやっぱり墓なのだとわかりました。
我々、感銘を受けました。長居せず、頭を下げて手を合わせてその場をあとにしました。でも、国道の車まで戻ってきても、静かなる衝撃と感動が止まることはありませんでした。
🕰午後五時ごろ、月読神社、下山。
はたくんの運転で、川本町まで帰ります。一時間半くらいでしょうか。車内、二人とも前方一点を見ていますが、古代ハイ。山道、集落、くねくね。もう、なにを見ても、景色が二〇二三年のそれに見えなくなりました。
同じ疑問を口にしました。
L「九十七代ってどのくらい?一代目っていつの人よ?」
H「昔の人は短命ともいうから一人五十年生きたとしても約百代だとして、五百年くらい?」
L「ほほう、五百年ってことは、江戸時代ちょいまえ? ……いや、はたくん違うよ!!」
H「ん?」
L「一人五十年で百代だったら、五千年前になっちゃう!」
H&L「…………」
はたくんはハンドルを握りながら、私は前をみながら。
H&L「わあああああああああああああああああ!!」
何かを祓うように、二人して思わずめちゃくちゃ大きい声を出してました。
H「こわいこわいこわいこわい(すごい)!」
L「ちょっと計算しなおし!ありえないから!」
計算、できてないし。アホです。
冷静に考えればわかります。五十年は一生の長さでしょ、と。昔の人たちはほとんどが十代から二十代で子どもを産んでいたから、一世代カウントするなら二十くらいで計算するのが妥当なはず。
とは全く気づいていない二人、それでも自分たちなりに頭を絞ってみることにしました。
まず、侍でもなんでもいいけど、百代近くも家系図がわかっている家なんてよっぽどの家の人たちのはずだから、どんな可能性があるか調べてみましょうと。助手席の私が調べごとをします。
L「今の天皇が百二十七代だって!!」
H「まじか!天皇の一代目は?神武天皇だっけ?っていうか天上人から人だってことになった一代目は!」
L「それそれ、神武天皇じゃない」
H「あの人、いつの時代だ?」
L「ちょいまち。一代目として即位したのが……紀元前六六〇年」
一同、ピンとこず。紀元前て、あーた。
L「ってことはだよ、それ百二七で割ったら、一代が平均二十一年ぐらい」
H「なるほど、即位の期間だもんね」
L「うん、職務期間としてね。じゃあ二十一年かける、九七代前の人って」
計算機が叩き出しました。
貞子さんの祖先、一代目は?
L「二○三七年前だって」
L&H「……ホォオオオオオ」
まさかの紀元前。だいたい、多少誤差があるにしても、西暦〇年近辺ってことになります。もはやフォーとかヒェーとしかそよ風のような声しか出ない。
続いての疑問。じゃあ、比較対象として、そもそも、今回巡っている神社の御祭神たち、古事記に書かれていた天照大神とかっていつの話なのよ。
H「古事記っていつだっけ」
L「うーんとね。七十二年。八世紀の初めごろだって」
H「貞子さんの一代目、それより古い可能性あるぢゃん!!」
L「ていうか神話としては、神武天皇より前に天照大神とかがいたってことでしょ?本になったのが八世紀ってだけだから」
H「貞子さん家、何の家なんだよ!神?神なの?俺たちが見たのは神の墓なの!?」
L「うわ、面白そうな事書いてある。このころ、空白の四世紀ってのがあるんだって」
話しながら、西暦〇年あたりの日本の歴史をうろうろと検索していた私。知ってる人は知っているのでしょうが、私はまったくわかっていなかったものですから。面白くて仕方がない。
L「はたくん。どこにも何の言及も残っていない空白の四世紀ってのがあるそうだよ」
H「なにそれ、読んで」
L「うーんとね。古事記が書かれる前のこと。三世紀には、卑弥呼がいた邪馬大国とか他のたくさんのクニが三十以上日本にあったらしいの。で、五世紀には大和王権っていう巨大政権が奈良あたりにできていたと」
H「その間、四世紀に記録がないの?」
L「うん。多分、その間に日本統一が行われていたという説があるみたい。で、ほぼそれと同じ時期に、もともとこの辺にあった出雲王国ってのが消滅した可能性があると」
H「出雲王国って神話でしょう」
そう、古事記の三分の一もを占める出雲国やら出雲王国といわれるその勢力は、ほぼほぼ日本の神話の中のものだったそうです。ただ、これは後になって調べてみたことですが、最近では考古学的視点で発掘される勾玉やらなんやらの研究対象が増え、今の島根県あたりに「存在した」ことが徐々に明らかになってきている途中だそうです。
L「なんかね、この頃、大和と出雲の戦争と話し合いがあったみたいで。そのあとに出雲王国は消滅したらしいよ。ってことはだよ。ちょっと私の仮説聞いてくれる!?」
H「おおう、いいよ!カモン!」
L「あの形の墓を私は見たことがないの。もしあれが奈良とかさ、他の地域にも残ってるんだったら、出雲にやってきた大和側の人のお墓の可能性。でもね、もし他の地域にはなくてこの辺りにしかない形だとしたら」
H「だとしたら!?」
L「消滅した出雲国側の生き残りとか、豪族だった人とか!そっちの家系が、大和に吸収されたあとに密かに一代目となって代々家を守ってきた的な?」
H「ほほおおおうう!いい、いいよその仮説」
L「だからあんな山奥の見えないところに隠してあるみたいに墓跡が」
H「だとしたら、当たり前だけどさ、俺たちより前に研究してる人たちがいるはずだから島大(島根大学)の人とかに聞いてみたらわかるよね」
L「そりゃそうだよね。しかし古代出雲国がここにあったのかもしれない、その名残を今日も見れるってすごい話ね」
H「まあでも驚かない、そういう土地だからねえ」
L「そういえば出雲大社の大国主命って国造りの神様でしょ?国を作ったって、日本全部を作ったのかと思ってたけど、よく考えたらどのサイズのことを言ったんだろう」
H「そりゃあね、北海道と沖縄は独自の文化と宗教だし。明らかに別として」
L「そうね、九州から東北まで?」
H「なーんか東北も別物な気がせんでもないけどね。神話には島を引っ張ってきたってのもあるから」
L「どのくらいの島をよ、本州?」
H「どうだろうねえ?」
これも後で調べたら、古事記や日本神話の記述ではなく「出雲国風土記」という記録にあって、島根半島のことじゃないか、いやそれだと”国引き”っていうには小さすぎるから、もっと大きいんじゃないかとか、いろいろ仮説があるみたい。
L「出雲王国。どんな国だったんだろうね。貞子さんの家の一代目は少なくともその当時のことを知っている人だったのかもね」
🕰午後七時ごろ、はた家に帰宅。
この夜、我々ははた家に帰るとご両親にこの話を興奮気味に話しまくりました。「苗字見なかったの?」と母上に聞かれ、「痛恨のミス!見ませんでした!」と地団駄を踏み。
島根滞在中、夜は各自が調べ物をし、翌朝はお互い調べた情報を交換し合うというルーティンが始まりました。
古代出雲ミステリーツアー、貞子さんの家系はいかなるご家庭なのか。
実は、我々が情報が少なかったためにたどり着くのが遅くなっただけで、普通にインターネットに答えがのっていました。
あっけないようですが、それはそれですごかったので、ここで答えを発表いたします。スーパーヒトシくん人形、出す人は出してください。世界、ふしぎ発見!
我々が見たのは、「小野家の墓」でした。そしてその小野家は、私たちが訪れた日御碕神社の宮司さんの家系とのことでした。
なんとこの小野家、一代目からずーっと、ずーーーーーーーーっと、日御碕神社の宮司さんなんだそうです。え、ずーっと?ほんとに、二千年ぐらい前からずーっと!?
今は九十八代目として、小野高慶宮司が職についてらっしゃいます。普通に写真もありました。そして、その祖先についても、サラっと普通に答えが書いてありました。
「小野家は家譜によると、須佐之男命の五世孫天葺根命(アメノフキネノミコト)の後裔」
アメノ、なんだって?
天葺根命は、古事記によると、大国主命のオトンだそうです。
もう一度いいます。あの、出雲大社の、国造りのかみさまの、大国主命のオトンだそうです。
オトン。
神のオトンは。
これまた、神ちゃうんか。
その後裔だという小野家、毎年大晦日には一子相伝の儀式があるとか。年末の七日間、潔斎した宮司は、大晦日の深夜にひとり社前の天一山に登るそうです。この神事は、小野家の宮司たちによって受け継がれ、古代から今日まで途絶えたことがないとな。
「当日は雨雪がどんなに激しくても祭典が始まって終わるまでは晴れ渡り、宮司の服が濡れたことはない」
ほんまか。
機会があったらお聞きしたい。
神は、いつから人になったのでしょうか。
なるとかならないとかじゃないのでしょうか。
ていうか、カミってなんなんでしょうか。
日本のそれは、「GOD」とは訳せない独自のものだと私は思っております。
実話と、神話と、宗教、その入り乱れた形状の何かが形を変えながら今に至っているとして。元を辿れば、そこにはシンプルにその時代を生きた人間の、自然と密接にあった生活と、空を見上げる物語があっただけなのかもしれない、とすら思うことがあります。
ただ、それが、二千年もの間、脈々と密やかに、神社の中で、山の中で、いろんな土地で、どこにいっても鳥居があって受け継がれていることがすごい。たとえ政治的拡大で全国に広まったとしても、こんだけ続くためには何かの理が叶っているはずで、それがなんなのかが気になるのです。
特に島根の奥部にいくと、実感が湧くのはなぜでしょう。生活と密着して祭りや神楽が続いています。そのこと自体もとても興味深いです。
さて、私とはたくんの、古代出雲ミステリーツアーは、これにて「お・し・ま・い」ですが、まだ一個だけ、楽しみなことがあります。
調べてもわからなかったこと。あのお墓の形が他の土地にもあるのかどうか。円柱と玉はどっから来たデザインなの!古代出雲ミステリーツアーは、もしかしたら続くかもしれません。

日御碕神社の年末の行事は、参拝に来られても困るんだそうです。宮司一人でやることだから。
神事やら、神楽やら。この島根旅に行くまで、私はもう少しこれらを神秘的なものと漠然と捉えておりました。よくわからなかったからだと思います。
が、逆に。
島根旅を経て、まじで二千年続いている家系があるんだ、しかもそれが宮司さんで、と知って、めっちゃくちゃリアリティが沸いてしまい。生活感というか、むしろ人の営みのすごさというか、継承する意気込みがすごいというか。
また、はたくんのご家族も代々神楽をやっているんだそうで。
神楽って誰がやるの?何か特別な資格がいるの?ときいてみましたら、どシンプルに「いや?」とのことでした。
寺でいうところの檀家さん、神社バージョンでの氏子さんたちが、代々踊ってるんだよとのことでした。はた家も氏子だそうです。
はたくんも、少しずつ継承のためになにができるか、その視点を持ち始めているようでした。
漢字ドリルを夏休み毎日続けるのも無理だった私からすると、何かが二千年続くとか、意味がわからない。
タモリさんが三十二年いいともを続けたのもすごいけど、タモリさんのご家族の方がさらにいいともを続け、それが二千年続いた上にクオリティーがキープされ、ずっと面白いままだったら?っていう。
そういうことに近くないですか?違う?
恐るべし、出雲。