LOVEのひろいばなし Vol.102「G7と二十五歳のわたし」

“Tokyo, London, D.C., Moscow, Beijing, Seoul, New Deli
Ams, Buenos Ares, Jerusalem and Paris,
Barcelona, Rome, wherever is your home,
Kiss her in the rain
Say no more black rain”
「東京、ロンドン、ワシントンDC、北京、ソウル、ニューデリー。 アムステルダム、ブエノスアイレス、イェルサレムにパリ。 バルセロナ、ローマ、どこがあなたの故郷だとしても 雨の中で彼女にキスをするんだ そして ‘黒い雨なんかもう二度とごめんだ’って言ってやろうよ」
そう歌ったのは、二十五歳前後のLOVEさんでした。
核保有国の首都と、そうじゃない街の名前も羅列の中に入っています。とにかく語呂が良くて歌うのが気持ちいいいパートです。
シングル「君は僕のセンユウ」のカップリング曲でサードアルバム「Telepathic Love Songs」に収録した「KISS ME IN THE RAIN」。 雨の日や、大事な日の近辺など、長年歌い続けているこの曲。「ニューデリー!(デリー!)」の掛け合い、いつもありがとう。
元々は、歴代の広島や長崎の市長さんが、核保有国の指導者に向けて毎年手紙を送っているということを聞いて書いた曲です。その話を聞いた時、若かりしLOVEさんのファーストリアクションはこうでした。
そんなもん、日本の首相の仕事ちゃうんかい。
いや、すごい頭が下がるけど、なんで市長さんなん。
世界で唯一の被爆国、原爆を経験した国として。他のどの国にも言えない経験値をもっている被爆国の首相から核保有国すべての指導者へ直接送れる手紙があったんじゃないのかなと素直に思ったわけです。
「核を保有する国の指導者は原爆資料館に絶対に足を運ばなきゃいけないという法律でも作ってくれい」。いつからかもうわかりませんけど、もうずっとそう思っています。
あの資料館で語り継がれていることを、そしてあの資料館を出た後に見える広島の景色を知らずして核を適正に扱える人間などいない。広島をフィーチャーしていますが、もちろんフルコースで長崎も込みです。そもそも核なんて誰にも持ってほしくないけど、この桁違いのむごさの記録を見ることすらない指導者になど。
マジで世界中の偉いさんの首根っこを押さえて全員を広島の原爆資料館に連れて行きたい、話はそれからや、と若いながらに強く思っていました。
さて、そんな曲のリリース二○○九年から、十四年がたったつい先週末のこと。広島でG7が開かれました。
核保有国全員じゃないですが、マジで世界中の偉いさんがだいぶ広島に集合してました。
議題は、多岐に渡ります。環境、食糧危機、ジェンダーイクオリティ、エネルギー問題、そのどれもが最重要事項と言っても過言ではない世界的規模の課題ばかりでありつつ、ゼレンスキー大統領が来日したことで、やはり長引くロシアによるウクライナ侵攻を念頭に置いた「対ロシア」、そして「対中国」のあれこれについて大きくスポットライトが当たったように思います。
嗚呼、ものすごい絶妙なパワーバランスと様々な矛盾の坩堝の中で考える「世界の秩序や平和」について。とはいえ、あくまでも政治のサミット、という枠組み。元も子もないことをいいますが、つくづく「政治的うんぬん」という方法論が自分の性根に合わないなと思う。
主催国である日本、岸田首相は広島からの「非核化」を推してました。というわけで参加主要七カ国のアメリカ、フランス、カナダ、イギリス、ドイツ、イタリアのみならず、グローバルサウスの代表格で核保有国のインド首相までもが、原爆資料館を訪れましたね。
それ自体は素直によかった、と思いました。どんな冷徹な指導者がいたとしても、あの資料館を見て「OK!じゃあ核爆弾、明日使うね!」ってなる人はさすがにいないんじゃ。というか、あれを見てそれでも核保有に一ミリの罪悪感も感じない指導者はもう本当に、世界的にサイコパス認定でおでこにハンコ押してもらった方がいいとすら思うほど。
ただ、そのニュースを見ながら、同時に、日本として本当にこのやり方でよかったんだっけ、とそこはかとなく不安にもなりました。なんだろう、モヤモヤというか、危機感というか、違和感というか。それがむくむくむくと生まれて、どんどん大きく膨らんだ週末でした。
前にも書いたことがあったかしら、こういう違和感を私は大事にしています。もっと地頭のいい人は、こんな風に考える必要がないのかもしれないけど。そもそもが別にできた人間じゃないですから、なにかを忘れているんじゃないか、とか、何かを間違えていないかとか。すぐにはわからないんです。でも違和感を感じた時はそれが糸口になる。
それを無視した時に、「今日の私が考えておけば、明日の私が救われていたのに」みたいなやつになる。そういう「気づき残し」って、時々ありません?
音楽でもそうだし、チャリティでもそうですが、心が行き届いたプロの人たちってあんまりそういうことがないなあと。逆にいうと致命的な「気づき残し」のせいで、取り返しのつかないターニングポイントを曲がってしまう、後になってわかる、みたいなことがある現場は危うい。
で、政治でもこれはきっと同じことな気がするんですが、プロがやってるんだから、考え抜いてやってるんでしょうよ、と信じたいんだけど、ぬぐえない違和感。今回のG7にも、それがありました。
「岸田さん、何かを忘れてる気がする。何かが欠けてる。何だろう」
主催国として、日本の岸田首相が「非核化」をこれだけ重要視してアジェンダの上位に掲げ各国主導者に原爆資料館を訪れてもらうことに成功したこと。そう考えるとそれは「成果」に間違いはないはずだけども。
はたして、これだけ東側諸国が並んで、対ロシア対中国で結束を固めながら訪れる原爆資料館ってどういうことなんだろう、と。
G7広島サミットから発せられた非核化のメッセージは、私が期待していることとは似て非なるものなんじゃないか。そこに差があるとしたら、それってなんなんだろう、と。
結局この違和感の正体を掴むまで数日かかりまして。
「G7広島サミットを受けて中国が反発、議長国の日本に申し立て」
「G7での東側諸国の結束を受けて、ロシア首相が中国の経済フォーラムに出席して上海で握手」
そんなニュースや写真を見て、だんだんと「ああ、しまった」と私は理解したのです。
なぜ、ロシアと中国に「原爆資料館を、我々と一緒に見てほしい」と、個人的にでもいいから岸田さんが一言手紙を送るとか、ご招待を出すとか。そういう既成事実を作っておくことを日本は考えつかなかったのだろう。もしくは考えついたとして、それは政治的には許されないことなのかもしれないけど。
このG7での原爆資料館の訪問。ウクライナ侵攻を続けるロシアへの、そして付随して中国への「あんたらの核だけがあかんのやで」と取られかねない構図って、結果的に対立図を深めることに加担したってことにはならないのかな。これがどのくらい取り返しのつかないことになるかは今の私にはわからないんですけども。せっかくなんだから、全ての核保有国に対して広島市長が「非核化」への祈りを手紙にしたように、世界に分け隔てなくメッセージを、ご招待だけでも届けられなかったのかなあ。
「非核化」への取り組み。
これは、日本が好きで背負った使命じゃないけど、他の国がこんな使命を負う日が来ないように、日本の私たちが唯一のプロ、先輩になれることです。
G7でそれでもこれだけの首脳達に同時に原爆資料館を見てもらったこと。絶対意味はあったはずだけど、同時にもっとできることがあったのなら、安易に成果とも失敗とも呼べない気がするなあ。
なんてことを思いながら、私は渋谷にいました。
今週の東京、火曜日。ぐっと気温が下がって冷たい雨が降ってました。私は頭の中で KISS ME IN THE RAIN を歌いながら街をてくてく通り抜けておりました。
「霧雨の中、傘も刺さずに立っているのね So nice, So nice 声もかけずに眺めてたいくらい綺麗よ」
雨の中で待ち合わせをしている街角のカップル。 キスをして、たくさん愛しあって、楽しいデートができますように。 手と手をつないでスクランブルを走り抜けられますように。 渋滞のタクシー、水溜りにネオンが跳ねてるのも綺麗だねーと楽しめますように。 飛び立ってく白いハトが見えたらせーので抱き合えますように。
二十五歳の私が歌詞の中で書いてた景色そのまんま、もう一度今の渋谷に重ねてました。
この雨が、黒い雨になったら、できないことばかりです。

ちょうど G7の直前のことです。
雑誌「TIME」の表紙を岸田さんが飾りました。そのヘッドラインがとんでもないことになっていたのでミュージシャンの友人達も「やっば…」とSNSなんかで書いたりしているのを見てました。
見出しと内容が違いすぎると日本政府の申し立てをへてヘッドラインはその後オンラインの記事にて変更されてました。
"Prime Minister Fumio Kishida wants to abandon decades of
pacifism--and make his country a true military power,"
「日本の首相の岸田くん、何十年間の平和主義を捨てて日本を軍事大国に変えようとしている」
からの。変更後は。
"Kishida is giving a once pacifist Japan a more assertive role on the global stage."
「日本の首相の岸田くん、一度は平和主義だった日本を国際舞台において、より主導的役割を与えようとす」
だそうです。
で、見出しより中身が大事だよなと思って全文読んでみました。
ものすごく多角的に、今の日本のことを見ているある記者さんの視点だったので、大変頭が整理されました。しっかし海外ニュース記事って本当に長いです。多面的というか、いろんな取材が一記事の中に集約されてて、めちゃくちゃ考える力を試されるというか。
日本語訳記事、どこや。見つけられなかった。
興味のある方はぜひ、Google 翻訳先生、頑張ってみてください。
https://time.com/6278122/fumio-kishida-japan-prime-minister-interview-g7/