LOVEのひろいばなし Vol.10「チベットでにこっ!」

大学時代の友人、以前のひろいばなしに登場したミス・DRKの他にもう一人、変わり種がおります。
こちらミス・チベットと申します。
大学入学当初、はじめの説明会?だったかと思います。大教室で、後ろの席から肩をこづかれ振り向くと、「ねえ、君さあ」と声をかけられました。私、普段の生活で、君、と呼ばれたことがなかったので、まずそれに面食らったんですが、続いて「君さあ、帰国(組)でしょ」と声をかけられました。あとで聞いたら、私がおだんごヘアーを鉛筆一本で差して留めているのを後ろから見ていてわかったんだそうです。「日本人、普通それやらないから」、にこっ!
この、にこっ!がすごかった。多少のふてぶてしさと、にこっ!の掛け合わせ。これが最初の出会いでしたが、とにかく笑顔に嘘がない人なんだなと次第にわかります。人に迎合しているのを見たことがありません。自分に正直に生きているからものをはっきり言えちゃう、けど他人を攻撃するつもりなど毛頭ない。そんな性質からでしょうか、その後チベットという土地に彼女の肌が合ったのも、今となれば納得がいきます。
ミス・チベットは大学卒業後、もともと生まれ育った香港にて就職。フリーペーパー編集者としての仕事が死ぬほどつまらないとぼやきつづけ、ふと旅行した先のチベットという異国に思わぬ恋をして、30代中盤でスコーーーーンと移住しました。え、なんで?と聞いたら「とにかく綺麗だったから」にこっ!って感じだったかと記憶しています。
ちなみにチベットは、中華人民共和国の自治区として独自の法の下にあります。外国人は、通常住めず、ワーキング・ホリデー制度も対象外です。なので、彼女は語学学校に入るというオンリーチョイスで移住します。
一方、THE・資本主義どまんなかで暮らし、30代の自由を謳歌しているマイペースミュージシャンこと私、そして同じく映画業界の自由人ミス・DRK。たまたま休みのタイミングが合ったこともあり、あの子に久々逢いに行ってみますか、とチベット行きを決断。我々仕事が早いものですから、秒で飛行機を押さえ、ガイドに連絡をとり、許可証を申請。さくっと旅立つことになります。
完全なる女子大生の同窓会ノリで、僻地へ。
その10日後、どんな気持ちでチベットの空港を離陸することになるか、その直前のターミナルでどんな気持ちでバーガーキングをほおばることになるかなんて、予想もせずに。
まずは、乗り換えの地、中国の西南部、西寧市まで飛行機で飛び、そこから24時間、青蔵鉄道という夜行列車でチベットへ向かいます。これが楽しみだったし、実際本当に楽しかった。
世界で最も標高が高い駅を通過することでも有名なこの寝台列車は、デザインはさながら銀河鉄道999。特急というにはゆっくりで、窓もとっても大きくて最高。
鍵がつくという理由で買った一級チケットは四人用の寝台車、向かい合わせの二段ベッドがある作りの部屋でしたが、出発時に一緒に乗ったジモティのおばちゃまは早々に途中下車しました。やったー!貸切じゃん!音楽かけようよ!日記書く!私寝る!などと思い思いに過ごしている間、夕日はとにかく雄大に、車窓を流れていく湿地帯の湖面を反射させていました。
日が暮れると、やがて人口の光は一切視界から消え、山脈をぼうっと浮き上がらせる月あかりだけの世界に。西遊記、孫悟空が三蔵法師たちと馬を引いて旅をしていた山脈を見ているみたい。満点の星空の下を列車は抜けていきます。
…もうこの時点で、窓に張り付いて空を見上げている二人、「やっぱ人生って」などと意味なく語りが入ります。内容は、ないです。旅マジックってやつですね。
夕飯は食堂車。何食べたか、どうやって頼んだか、よく覚えていないです。ただその直後、勢い余って、食堂車の売店で買ったお酒を飲んでみました。脳天が焼けるほど強烈で、二人とも、即・爆睡。
世界で最も標高の高い駅を通過する列車です。もちろん空気も酸素も薄い高度を走っています。ぜったいに飲むなと言われていたアルコールに手を出すなんざ、調子こいたのは明白です。
「うおおお…頭があ…!」明け方とはいえまだ真っ暗闇の中、鈍痛に目を覚ますと、列車はどこかの駅に止まっていて、鍵をかけたはずのドアがどんどんと叩かれていました。
まじか、同部屋に新たな乗客か。
大急ぎで鍵をあけて、迎え入れると、労働者風のお兄さんが乗り込んできて、下のベッド(私が占拠してたほう)を指差しています。ごめん、ごめんて…なんやいうてもこの相部屋のシステム、ようわからへんのよ…。大慌てで掃除です。
陽が登って次に私たちが目をさました時、まだ彼はいましたがずっと背を向けたまま寝てました。
そのうち、なーんにもない駅で降りて行きました。どこに帰るんだろうね。
明るくなって分かったことがありました。4つのバンクベッドにはそれぞれ、壁際に酸素チューブがついていたのです。これか!これに気付いていれば、夜中に地獄の頭痛を味わう必要はなかったのか!
今更、とは思いつつも鼻にチューブを挿入。うっすら、ぷすううううううううと漏れる音を聞いていると、目的地であるラサへ近づいているのでしょう、羊が点々と見えていた緑の山脈が、土埃と土壁の民家に変わっていきます。
キーッと列車が止まり、ハリーポッターの駅を赤茶けさせてアジアバージョンにした感じのプラットホームに私たちは到着します。とうとうきたよ。照りつける太陽、乾燥した風。神の土地、チベットの首府ラサに降り立ちました。
南米のマチュピチュや、ネパールの少数民族など、標高の高い地域の子どもが日に焼けた顔で笑う、あの笑顔、わかります?たぶんナウシカの風の谷のこども達も同じような顔で笑ってたんじゃないかと思います。自然と共に生きる者だけが見せる、自然児の笑顔。あれと同じものを、日本人の笑顔で初めてみました。
「ウケる。ほんとにきたね」にこっ!
標高3500mで見る、彼女の笑顔は、磨きがかかっていました。ホンモノでした。
さあここから、10日目のバーガーキングまで。予備知識のなかった私が壮絶なチベットの歴史を知って、1500年分の宿題を持たされる羽目になるまで。どうしてそこに暮らす者たちだけがこの笑顔を習得できるのか、わかるようになるまで。ひろいばなしチベット編はシリーズになるかと。またそのうち。
~はなしのつづき~
〜話の続き〜
青蔵鉄道は、いくつか始点があるのですが、私たちが乗り込んだ西寧市の駅は、巨大・未来系ターミナルでした。
私は日本国籍。ミス・DRKは日本育ちですがパスポートは韓国籍。二人とも話せる中国語は「チンタオビール」「チンジャオロースー」「メイヨーメイヨー(かまへん、かまへん、の意味であってます?)」ぐらい。西寧市では、絶望的に英語は通じません。巨大ターミナルに降り立った瞬間、我々とりあえず棒立ちになりました。みどりの窓口、どこ…。
うんざりするような列をみつけて、アレちゃうの、アレに並ぶんちゃうの、と言ってましたら、強面の警備員…ちがう!警察だ!が近寄ってきて、完全に我々を怪しんでいます。派手な顔しやがって、と言われてる気がします。いや、これ生まれつきでして…。
パスポートを見せろ、と割と荒いトーンで言われます。ひいい、制服が怖い。二人でなるべく愛想を振りまきながらパスポートを手渡すと、おっちゃん、中国語でしたが、何か感想を述べた模様。
「日本人と韓国人が?一緒に中国を旅してるだって?珍しいものを見せられたもんだぜ!」的なことを言ったに違いありません。おい、わかるんだからな!ニュアンスで!
もうええからパスポート返せやぁぁ、と半泣きの関西弁でゴネてみようかなとおもいましたら、そのまま「来い」とばかりに、ドシドシ歩きでパスポート持ったまま先に行ってしまいました。ミス・DRKは、早くも軽ギレ。ちょっと待ってよ、こっちはトランクとかあるんだから、あんたのペースで歩かないでよ、と、こちらもマイペースにぷんすか。
いや、っていうかさ、これやばいんじゃない?
「別室→尋問→いちゃもん→強制送還、もしくはとりあえず列車に間に合わない」じゃない?と思いましたら。
あれ、この人、ターミナルの入り口、顔パスしたね?
で、知らない間に最前列きたね?でもって、窓口突破しとるね?
「はい、ここで手続きしなさい」と華麗に20人飛ばしを決めた警察官のおじさん。
すんなり駅構内に入れてしまう完全なる外国人観光客、我々ふたり。
いや、それ多分ルール違反だとは思うんですけどもぉ…へらへら…、そして謝謝…!
結果、非常に助かってしまいました。心の中でだけですが色々思ってディスってしまい、なんかすいませんでした。同時に、なんといいますか、矛盾するようですが、言っとかないと。
…よ、横入り、はんたーい!制服の権力使い、はんたーい!!!
以上、青蔵鉄道乗車前の一悶着でした。