LOVEのひろいばなし Vol.57「どうも、梅澤太郎です」

お若い皆さん、つるっと選挙行ってください。
さて、大事な話は済みました。どうでもいい話をします。
僕の名は、梅澤太郎といいます。
LOVEさんとは、同い年です。長らくラジオの番組制作でご一緒させていただいております。どのぐらい長いかと言うと、二千一○年の四月から。かれこれもう十二年にもなります。
今日も一緒でした。ジャック・ジョンソン特集をお届けしているオンエア中に、同時並行で日本の未来と僕個人のスタンスについてLOVEさんに詰められました。「梅ちゃんは〇〇区民だよね、候補者どうなの、どうするの」と。続いて、「じゃあさ、超自分勝手な人の発想してみてよ。梅ちゃんが権力の座にいたとして、この選挙勝ったあと三年間で何するよ」とのこと。「難しい質問をするねえ」と僕が考えている内に、「自分の利益を上げれるだけ上げるためになんでもやるでしょうが」と早くもご自分でお答えになってました。容赦なかったです。彼女は時々マルチタスクが過ぎます。
もう十二年です。毎週、顔を突き合わせています。目を合わせたくない日もあります。ですが許されません。LOVEさんはぐいぐい来ます。
「おはよう。ちょっと梅ちゃん。おはようってば」
この、「梅澤太郎の朝イチ挨拶が聞こえない問題」。長らくの未解決案件です。
LOVEさんのみならず、一部の女性スタッフも同じことをいいます。この番組の女性スタッフ、何よりの長所は、陰口を本人の前ではっきりと言うので表口になるところです。
僕としては、基本的に人間があまり好きではないタチなので仕方ありません。なんなら毎朝の「おはようございます」に匹敵するのでは、と思えるぐらいにはこのやりとりが定着しました。継続は力なりです。
ただし、これは長年仲間としてやってきた近しい関係性だからこその、僕の小さな甘えでもあります。「うるえせなあ、ほっとけやい」の無言の抵抗に、本当に誰からもリアクションが返ってこなくなったら僕は終わりです。
さて、僕の本業はディレクターです。番組制作における舵取りであり、バンドでいうならリーダーです。ボーカリストの状態を把握し、うまく導きながら選曲の意図を共有します。何が起こるかわからない生放送を安全に確実に。矢面に立つのは発言をしている出演者のLOVEさんですが、言うなればその日の全体の責任者が僕です。
「今日の選曲とても心がこもっていてよかった」や、「でもラジオやってなかったらマジで人でなしだよ」などと言われるたび、心の片隅で密かに誇らしく思っております。多少料理がうまいことと、お酒を飲んでは泥酔し記憶を無くしつづけている以外に特筆すべき特技もあまりない僕です。ラジオディレクターとしての仕事は、僕の大切なアイデンティティです。
ディレクターの志ひとつでラジオは大きく変わります。僕自身の倫理観や、意思、考察、音楽への愛の深さなどが、如実に選曲に現れるのです。センスも問われます。「おじさん臭い」「もうちょっと攻めたら」「今日のつなぎ超かっこよかった」「この曲よく思い出したね」などと、色々プレッシャーがかかる立ち位置ですが、やりがいは抜群です。歯に衣着せぬ現場の声を、良くも悪くも全身に浴びて毎日びっしゃびしゃになっています。
みんなが個性的で、非常に風通しのいい現場チームです。ただし、僕自身は会議ではなるべく遠回しに最低限の話し方をします。偉いひとたちに目をつけられることが何よりも鬱陶しく、心底面倒くさいからです。
先日もLOVEさんが「『今週の梅澤の本音』っていう会議アジェンダを追加してほしい、マジで」とおっしゃっていました。「若いメンバーの本音がしっかりと届くことで、ヘッドディレクターのM氏もより良い決断をできるから。言いづらいことももっとはっきり言って。お願いだから」と。僕より先に何かと主張してくれている人もいるのになぜ。LOVEさんには僕にふりかかるリスクを考えていただきたいです。
さて、LOVEさんの番組。僕はディレクターとして一曜日を担当するのみならず、構成作家としても別曜日を担当しています。今日がそうでした。
ディレクターの日は LOVEさんとは別室、ガラス越しのコンソール(コックピットのような場所)に座ります。ところが構成作家となると、 LOVEさんと共にブース内に入り、打ち合わせから入れると2時間半を目の前で過ごすことになります。日々LOVEさんはありとあらゆる話題を僕に振ってきます。以下ざっと思い出すだけでも。
G7まとめるね。炭素排出量の数字データある?BBC訳すよ。英記事出せる?
あの映画のあのサントラ、なんだっけ。
スガシカオさんの「午後のパレード」の超かっこいいベーシスト誰!
最近は横浜行ってる?電源のあるカフェおすすめある?
新曲今書いているんだけど、このテイストどう思う?
〇〇の新作見れた?
メールテーマ、なんかもっといい言い方ないかな。
使途不明金の話って、けっこう反論もあったはずだけど、結局いくらでどうなった?
この曲グラミーとったっけ?
この言い方なら公職選挙法に触れない?
で、梅ちゃん、なんか浮いた話ないの。
構成作家を務める日の僕は、百科事典です。と同時に、自分の休日の過ごし方まで切り売りし、時には最も不得意とする恋愛話にも付き合わされます。LOVEさんの気分が赴くままにいろんな話題を振られながら、オンエアがスムーズに進むように調べごともぬかりなくやっております。
ひとつだけ、 LOVEさんから絶大なる信頼をいただいていると自覚している点があります。
「梅ちゃん、クソ真面目。まじで細かい」
ギリギリ悪口でありつつ、僕は褒め言葉だと思っています。
アーティストのリリース情報、ファンからしたら間違えて欲しくない年号やタイトル。そういう情報の正確性は、愛です。そして、どんな時事ネタにも賛同と批判があるのですから、両方の気持ちを知った上で話をする公平性。これも、愛のはずです。
また、「ざっくり翻訳」という LOVEさんが洋楽を訳して歌う秀逸な爆笑企画があります。実はその影には正確なタイミング、秒数、小節数に合わせた解説が考えられています。「あれ、LOVEちゃんのタイミング命だから梅ちゃんの細かさが生きる企画だね」と別の構成作家のH女史にもお褒め頂いています。
LOVEさんも普段はまあまあ真面目ですが、時にとんでもなくロックもしくはテキトーになる時があります。「スポンサー案件でいつもの三倍ピリピリすんのやめて」と言われようとも、僕の細かさがトラブルを防いでいると自負しております。
また、これだけは言っておきたい。誕生日が一日違いで僕の方が年上です。毎週月曜日に馴れ馴れしく「しいたけ占い〜、果たして我らの今週の運命は」とひとくくりにされるのもご勘弁いただきたいです。
そういえばLOVEさん、先週あたりから「私と十二年も一緒に仕事していて、梅ちゃんが選挙に行かない意味がわからない」とネチネチと言いはじめました。どうやら歴代、反論しないうちに「選挙行かないキャラ」が定着していたらしいです。彼女の倫理観の中では、メディアの一端を担う同世代の同業者が選挙に行かないということが耐え難いそうです。
とうとう今日LOVEさんに言ってやりました。 「別に絶対行かないとかじゃないんだけど」
え、そうなの!?と驚いていました。そして、数年分溜め込んだストレスから解放されたように、喜んでいました。本当に支持したい候補者が見当たらないと思い続けているだけだよ、と釈明したら、「そうだよね!そりゃー大体みんなそうだよねえ。いやー、そうだったかー」と急に同調してくれました。
冒頭に戻ります。ジャック・ジョンソン特集を生放送しながら、曲中は僕のためだけに僕の住んでいる○○区の候補者の解説を一方的にしてくれました。頼んでないです。
「911のときも、311のときも、終戦記念日も、ウクライナ以降も、梅ちゃんの選曲、すごく的を得ていると思う。まだかけてないけど、石油や燃料問題の話題の日にかけたいサラ・マクラクランも歌詞がぴったりハマる。こういう選曲ができるハートがある人なんだから」
LOVEさんと仕事をすることは、時にとても面倒くさいです。
参院選は日曜日。期日前投票も可能です。ただし、その会場がどこなのかを調べる時点でもう缶ビールを開けてしまいたいくらい僕的には面倒臭いです。さらに、その足でいつもの居酒屋に向かい、泥酔して誰に投票したか記憶を無くす可能性すらあります。
それでも、このどうでもいい話にお付き合いくださった皆様からの無言の応援を背中に受けて。
梅澤太郎、行かないわけにはいかなくなりました。「うるせえなあ、ほっとけやい」と、投票用紙を握りしめてレモンサワーの海を泳ぐ、魚座の僕の週末が始まります。

おーい、梅ちゃん。これで行かないとか、ないよね。読んでない、とかもないよね。タイトルに名前入れておいたんですけど。しかも本名。
同い年ということが功を奏してかやいのやいのと言い合える仲間です。彼の名誉のためにいっておくと、本当に仕事はきっちりとしすぎるほどきっちりとされています。
で、朝イチで「おはよう」が返ってこないのは、構成作家業の日。だいたい私がスタジオに入る朝イチのタイミングはヘッドフォンしてPCに向かって別の編集作業していることが多いのです。だからだよね。声が聴こえないんだよね、仕方ないよね。
って、見えとるやろが!思いっきり視界に入っとるやろが!と、私がネチネチ言う元気がない日は、それを察知し、ささっと無言でサポートに回ってくれたりもします。細かさの使い所よ。
ディレクターとして打ち合わせの席に着く日は、一応挨拶言ってるっぽいです。ただ、にぎやかな周りの女性スタッフの声にかき消されて、 遠めの「ほはよお」ぐらいのリバーブ感になっています。コンプをかけて差し上げたい。
人間誰しもがON&OFFや TPOにあわせて自分を使い分けています。あまり分裂していると信用できないものですが、この方はあくまでも分裂はしていない。無関心と熱いハート、ダメさと真面目さ、気のでかさと心配性、など相反するものが強烈に同居したままどっしりと存在していらっしゃる。実に奇妙。
幸か不幸か、まずまずイケメンなのも自覚があるようです。「見かけがダメになったらもう俺は終わりなのはわかってる」などと時折ねじれた不安を覗かせています。見た目が老いるのは当然だよ、でも内面は外見に現れるんだよ、がんばってという別視点をどなたかインストールして差し上げて欲しいです。
泥酔して、数人でうちに来て弾けないキーボードを叩きながら「♪こうみ、こうみ、ひーろーせこうみ」とアドリブをかましていたこともありました。いいブルースバーがあるから、と連れていってくれて、そこにあったギターを抱いて遠吠えのように米米CLUBの浪漫飛行……のはずだけどそう聴こえないなんらかの曲を歌っていたことも。全て記憶が泡と化すタイプです。もしくは、そういうことにしておいてあげようという黙契もあります。
十年ほど前ですが、年末の慰労会だったと思います。急に泥酔した夜の太郎が私に向かって声を荒げたことがありました。昼の太郎だったら絶対に言わないセリフです。
「らぶ、お前、ちゃんと曲かいてんのかよ!?」
私は「お、なんだ」と面白がったのですが、同席していた人たちの空気がヒヤリと変わり、ちょっとこれはダメなんじゃない、と気を揉んだ次の瞬間。
「早く日本一の歌手になれよ!!!」
ってめちゃくちゃらぶちゃんの味方じゃねーかよ梅ちゃん、とプロデューサーに突っ込まれ、そこそこの笑いが起きつつ、大半はスルー。一瞬の出来事でしたが、いい思い出です。
後日どんな顔して仕事に来るんだろうと思ったら、まったくもって普通の人以上に丁寧に「こないだはありがとうございました、覚えてない……ですが、はい、今日もよろしくお願いします」と放送に向かっておられました。性格指数がでっこぼこのグラフになりそうな方ですが、それも人間らしいといえば人間らしいのかもしれない。単に、どシャイがねじれて39周ぐらいしてるのかもしれない。
はあ。梅澤太郎に、こんだけの文字数と皆さまのお時間を使ったことも多少腹立たしいぐらいです。
とはいえ本当にいい選曲をする方。それも才能のうち。すごいと思います。これまでもこれからもお世話になります、長らくありがとうございます。
というわけで、
#梅澤選挙行ったってよ
を心のハッシュタグに私は今週末を過ごします。